俺が好きなのは、お前だ。~男友達の積年の片想い相手はわたしでした~
 母はおとなしいひとだった。黙って夫の意志に従う昭和の女だった。

 時折、彼は内心で一条の両親を罵倒した。侮蔑もしていた。一条グループは、彼の祖父の代で始まり、父親の代で大成された。たかが二代続いただけの成金のくせに、威張り倒しやがって。

 なにが、一条だ。ふざけるな。

 おれの、人権は。人間としての尊厳は、どこにある。

 おれは、この家を出て行く。おまえたちから離れてやるぞ。

 なにか、怒りの噴出する出来事があるたびに、彼はこころのなかでそう叫ぶのだが結局、一条の家に戻ってきてしまうのだ。

 彼は、ほかに、どこにも行く当てがない。

 そんなふうに、誰からも理解されず。誰かを真に理解することなく、こころの交流を重ねることもなく、孤独に生きてきた誠治だが。

 大学に入ると、彼の人生を変える出会いが待っていた。

『人間とは、客観的に物事を見ることなど絶対に出来ず、常に、主観で物事を判断しているのだよ。ぼくらは、色眼鏡をかけて物事を見ている』

 それは、その教授の口癖だった。初めて彼の講義を受講したのは『アメリカの歴史』だったと思う。
< 124 / 259 >

この作品をシェア

pagetop