俺が好きなのは、お前だ。~男友達の積年の片想い相手はわたしでした~


 おれの好きな、松岡綾乃も、同じなのではないかと。


 * * *


「いっちじょうせんぱーいっ」

 先鋭的な思想を述べる書籍から目を離し、顔を起こせば、誠治は、彼女の笑みと出くわした。

 よく、笑うようになった。大学生活が充実しているのだろう。

「なに、読んでんですか」ひょい、と誠治の向き合う本を覗こうとする挙動がなんだかいじらしい。

 誠治は目を細めて答えた。「アルチュセール。滝沢教授の思想を理解するなら必読の書だよ」

「あ、そうなんですか」喜ばしいことに、彼女も滝沢教授の授業を『刺激的で面白い』と言っている。三年生にあがったら、彼のゼミに入りたいそうだ。

 場所を考慮し、誠治は声量を抑えて尋ねる。「……ところできみはなにを借りに図書館に?」

「えっとぉ、フロイトかエリクソン辺りを読もうかなあと」

 意外なチョイスだ。誠治と同じく国際学部に所属する彼女は、アメリカ研究のコースを志望しているはず。

 心理学の本なんか、なにしに。
< 129 / 259 >

この作品をシェア

pagetop