俺が好きなのは、お前だ。~男友達の積年の片想い相手はわたしでした~
 だいたいな。育児休暇取得しといて仕事してねえくせに金まで貰っておいて。イライラしながら育児してんじゃねえよ。なんのために休んでんだおまえは。それと。怒りを優香に、ぶつけるな。おれにぶつけるならまだしも」

 それまで溜め込んでいたものを丈一郎は一気に吐き出した。――誕生日おめでとう。

 のちに。そのことを伝えられなかった2017年11月11日を思い起こすたびに後悔に苛まれることを知らずに……。

 呼吸を整え、膝に手を添えたまま、顔を起こす。暗い、瞳がそこにはあった。それは、丈一郎の知る綾乃のそれとは違った。初めて見る綾乃の表情だった。

 綾乃は明らかに無理に作ったと分かる笑みを浮かべ、


「……とりあえず。けいちゃんになに言っても無駄だってことはよぉく分かった」


 ――なにか。

 とんでもないことを自分がしでかしたのではないかと、丈一郎は直感した。

 けれども、保守的な丈一郎の人格がそれを否定した。いいや。

 母親としての自覚を育てるのが大切。彼女には、自分になにが欠けていて、それと向き合う作業が必要なのだ。

 向こう一ヶ月。ことあるごとに綾乃からの怒りを買うたびに、丈一郎は自身にそう言い聞かせるのだった。


 *
< 187 / 259 >

この作品をシェア

pagetop