俺が好きなのは、お前だ。~男友達の積年の片想い相手はわたしでした~
 とりあえずと、家財の一切を処分した丈一郎は唯一スーツハンガーを購入した。ベッドに寝るたび、彼女と情交に及ぶたび、足が自分のスーツについてしまうのには苦笑いしてしまう。それでも、この時間は――

 二度とない。大切で愛おしいひとときなのだ。

 丈一郎は、これまでの想いと、未来への希望を胸に抱きしめながら道を歩いた。

 駅を出たところで、例のスーパーのある角に差し掛かる。

 丈一郎は、どこで渡すのかは、決めていた。

『あの場所』を除いて、ほかにない。

 絶対に、己の手で綾乃を幸せにすると決意したあの場所で。

 全面窓ガラスのスーパーの前。帰宅が遅めの主婦や会社帰りのサラリーマンが懸命に袋詰をしている目前で、丈一郎は、足を止めた。

 彼女が、丈一郎の様子に気づき、彼を見あげる。

 ここで、彼は、不安に駆られる。

 両想いにも関わらず。最良の日にも関わらず。

 どれだけ彼女のことを、愛しているのか、伝わっているのだろうか。

 丈一郎は、彼女と結ばれて以来、毎日、毎日、彼女を求めた。それでも彼は、彼女を不安にしていたわけで。

 与えるだけが、すべてではない。
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