声の王子様
すれ違ったのは推し?
佐藤愛(さとうあい)は中学の同級生の結婚式に参列した帰り道、親友の月島麗依(つきしまれい)とカフェでお茶をしていた。

「真美、綺麗だったね」
「本当だね~幸せそうだった。どうするよ、うちら」
「どうするって? 麗依はいるじゃないの、彼氏が」
「でも彼、まだ大学生だから結婚とか考えてないと思うんだよね。婚活しようかな」
「ちょっと! それじゃ可哀想でしょ! あの子、麗依のこと大好きなんだからさ」
「だけど恋愛と結婚は別じゃないかなー」
「そんなこと言わないであげてよ。あんな良い子なのに可哀想だわ」
「って私のことはいいのよ! あんたよ、愛! あれからもう4年だよ? そろそろ恋愛、解禁しても良いんじゃないの?」
「いいの~私には決まった彼がいるから」
「彼ってあれでしょ、AVの」

愛はジトッとした目で麗依を見た。

「大人向け乙女ゲームね」
「ものはいいようね」
「いいじゃん! 別に!」
「そろそろ3次元に行こうぜ~」

愛はスマホをささっと起動させて麗依の耳元にかざした。

『キミって本当に俺を狂わせるね。もう限界だよ……』

麗依がぶるっと震えた。

「ね?」
「ね?じゃないわよ!」

そう言って愛の眉間を小突く。

「声は実在するから3次元じゃないの」

小突かれた眉間を摩りながら愛は文句を垂れる。

「まったくいい加減、現実の男に恋しなさいよね」
「でも『愛君(あいきみ)』を教えてくれたのは麗依でしょ」

3年前、愛は当時付き合っていた彼氏の浮気現場を目撃。
サプライズで彼の家に行ったところ、ベッドインしている彼氏と見知らぬ女性がまぐわっているところに遭遇した。
彼は反省するどころか愛をこっぴどく振り傷を残した。
見ていられなくなった麗依はたくさん出会いの場に愛を連れ出した。

「男を忘れるには男よ」

しかし色んな男性に会う度に元カレと比べて愛は凹んだ。
そんな時に麗依がハマっている乙女ゲームの話を聞いたのだ。
『愛している…君を』というスマホの乙女ゲーム。

「愛の言葉をたくさん囁いてくれるから肌が潤うわよ」

麗依に無理矢理、登録され何気なく始めた乙女ゲーム。
驚いたのが、ほとんどが濡れ場。
乙女ゲームというよりアダルトゲームのようだった。
そこに新キャラクターとして登場したのがリーガルという敵国王子という設定で、ちょっとSっ気の強いキャラ。
しかも、そこからボイスが各キャラにつくようになり、彼のサンプルボイスを聞いた瞬間、愛は恋に落ちたのである。

「あれは友人に紹介するとエピソードが読めるチケット10枚もらえたから教えただけなのに」
「そうだったの!?」

衝撃の事実にのけ反りそうになったが愛はこの乙女ゲームのおかげで今でも生きていけていると本気で思っている。
彼との恋愛を楽しんでいると元カレのことを忘れられると気が付いたのはすぐだった。
それから夜、思い出しそうになるとゲームを起動するようになった。

「なんで、そのキャラだけそんなにハマったんだろう」
「やっぱり声かな。そういえば最近、昔のストーリーも全てボイスがついたんだよ」
「そうなの!? それは知らなかった」
「麗依はすぐ飽きてからね」

麗依は豪快に笑った。

「声がね、いちいち予想を超えていてね。すごくセクシーでドキドキするの」
「ふーん。もう1回、別の聞かせて」

私はスマホで『愛君』を起動して1番、好きなセリフを聞かせた。

『君のことを好きで好きでたまらない。おかしくなりそうだ。俺の1部になってほしいほど愛している』

「おっも!」
「ちょっと! 麗依があんなにハマってたゲーム!」

愛は麗依に指さして怒りながら笑った。

「今、思うとハマっていた理由がわからないわ。現実でこんなこと言う男いないよ。目を覚まして」

そう言って愛の手をそっと握って落ち着かせるように下した。

「いいの! それよりどう!? 声よくない?」
「まあ確かになんかエロい声だよね」
「そうなの~!」
「なんつーか、腰に響く声って言うの?」
「そうそうそう! さすが! わかってくれるじゃない!」

愛は麗依が共感してくれたことが嬉しくて思わずデレデレした顔になった。

「まったくしまりのない顔ね」

麗依は呆れていた。

「これ、声優だれ?」
「それがわからないの」
「書いてあるでしょ」
「この人だけないんだよね。ネットで調べたら、この声優って顔も名前もすべて出してないんだって」
「ふーん」

麗依はすでに興味を失っていた。
愛はこのキャラクターに恋をしている。

(だから現実の恋愛はいらない。仕事をしてリーガル様と課金(れんあい)をして、それでいい。それで私の人生は充実している。そう思っていたのに……神様は意地悪だ)
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