第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「君に引き留められるのは、悪い気がしないな」

「……す、少しだけです」

そう言った瞬間。

——ガチャ。

扉の閉まる音がした。

「……ディラン」

「ん?」

「今……ガチャって……」

「うん、鍵を閉めた」

「……なぜ?」

一拍置いて、彼はゆっくり笑う。
その笑みは、少し意地悪で、でもどこか甘い。

「君を、逃さないために……かな」

言い終わる前に、私はそっと彼の胸に額を預けた。

——コテン。

「……どうした?」

「王妃教育……」

声が、少しだけ震える。

「思ったより、大変です」

「……うん」

否定も、励ましもない。
ただ、私の声を受け止めるような、静かな返事。

「お茶を飲んで、食事をして、刺繍して……」

「……」

「正直……退屈です」

「……そうだね」

頭の上から、優しく撫でられる。
その手つきがあまりに自然で、胸がじんわり温かくなる。

「それに……」

少し、間を置いて。

「無視、されます」

「……それは、ひどいな」

「魔女だ、とか……言われてます」

ディランの胸が、小さく震えた。
怒りとも、悲しみともつかない感情が伝わってくる。

「……こんな可愛い魔女なら、むしろ大歓迎だろう」

「……」

その言葉が、胸の奥にそっと落ちる。
甘くて、くすぐったくて、泣きそうになる。


「それでも……」

「うん」

「……ひとり、友達ができました」

「……それは、良かった」

その声は、ちゃんと“心から”だった。
私の幸せを願ってくれているのが、はっきりわかる声だった。
< 136 / 217 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop