第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

ディランが、私の背中をトントンと叩く。
まるで子供をあやすみたいに、一定のリズムで。
その優しい音に、胸の奥のこわばりが少しずつほどけていく。

「……ディラン」

「ん?」

「……好きです」

言った瞬間、
背中を叩くリズムが、ぴたりと止まった。

「……」

沈黙が落ちる。
彼の呼吸が、ほんの少しだけ乱れる。

「……なにか、言ってください」

恥ずかしさをごまかすように、弱く笑う。

「……いや」

ディランの声が、いつもより低く、深い。

「驚いて……それから」

一拍置いて。

「すごく、嬉しい」

その一言だけで、胸がぎゅっと熱くなる。
息がうまく吸えないほどに。

次の瞬間。

ディランの手が、ためらいがちに私の頬へと移動した。

指先が、そっと輪郭をなぞる。

「……ティアナ」

名前を呼ぶ声が、いつもより低くて、やわらかい。

「そんな顔で言われたら……離したくなくなるだろう」

ディランがさらに抱き寄せる。

「好きだよ」

耳元で落とされたその声は、
反則みたいに甘くて、息が止まりそうになる。

「君が思っているより、ずっと」

胸の鼓動が、彼の胸に触れて伝わってしまいそうで、
恥ずかしいのに、離れたくなかった。

「……もう少しだけ、いいですか?」

小さく尋ねると、
ディランは笑って、私の頭をそっと撫でた。

「うん。いくらでも」

その言葉に、胸の奥がじんわり溶けていく。


このまま、
この距離のまま、
時間が止まってしまえばいいのに。

心の底から、そう願った。
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