第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
とりあえず、自分の頭についた葉を取ろうと手を伸ばした――その時だった。
ディランの手が、アラン殿下の手首を離し、そのまま私の方へ伸びてくる。
「……はい。取れたよ」
指先がそっと髪に触れる。
完璧な笑顔。いつも通りの、王子様の顔。
――なのに。
その笑みの奥に、わずかな強張りが見えた。
「では、私はこれで」
空気を読んだように、アラン殿下が一歩下がる。
「ティアナ嬢。楽しい時間を、ありがとう」
「ええ。こちらこそ」
そう返すと、アラン殿下は軽く手を振り、歩き出した。
その背中を――
ディランは黙ったまま見送っている。
言葉もなく、表情も動かさず。
ただ、兄の姿が人混みに溶けていくまで、視線を離そうとしなかった。
冷たい風が、もう一度吹き抜ける。
私は、その横顔を盗み見ることしかできなかった。
(……やっぱり、気にしてる)
兄として。
王族として。
そして――自分より先を歩いていた存在として。
ディランの胸の内には、まだ整理しきれない想いが渦巻いている。
それだけは、痛いほど伝わってきた。