第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
「……すまない」

「はああ……ほんっと最悪」

テオは睨みつけるように腕を組んだ。

「それより」

視線を逸らしつつ、ふっと口調を変える。

「ティアナになにか、頼まれてるな?」

「……まあね」

「教える気は?」

「ないよ」

「そうか」

短い沈黙。

テオは、今度は真っ直ぐこちらを見た。

「……ねぇ、殿下」

低い声。

「どっち?」

「陛下の味方か。それとも――お嬢様か」

迷いはなかった。

「ティアナの味方だ」

即答だった。

テオは一瞬だけ目を見開き、すぐに小さく笑う。

「……そう。それだけわかればいいや」

踵を返しながら、念を押すように言う。

「気をつけてくれ。ティアナから、目を離すな」

「ああ」

「当たり前」

「それよりさ」

振り返りもせず、テオは淡々と言った。

「今度、お嬢様に無理矢理なことしたら――」

一拍。

「殺すからね」

それだけ言い残し、
テオは何事もなかったかのように、しれっと夜の闇へと消えていった。

部屋に残ったのは、静寂だけだった。

俺は深く息を吐き、天井を仰ぐ。

――ティアナの味方だ。

口にした言葉が、胸の奥で反響する。

それは、ジョルジュ陛下よりも。
王位よりも。
血縁よりも。

彼女を選ぶ、という意味だ。

……簡単な覚悟じゃない。

だが、もう誤魔化さない。

「……待つさ」

誰に言うでもなく、呟く。

触れたい衝動も。
奪いたい不安も。
全部、胸の奥に押し込めて。

彼女が、自分の足でこちらを選ぶまで。

「今度は、逃げない」

そう誓って。
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