第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
「そんなハイスペックな兄がよ? ティアナちゃんとイチャイチャしてみなさいよ! そりゃもう、気が気じゃないでしょうよ!」
「……イチャイチャは、してないけど」
思わず即座に否定してしまう。
「とにかく、今回は王子様の気持ちも分かるわよ」
ルイが肩をすくめる。
「じゃあ……私は、どうすれば……?」
口に出した瞬間、余計に分からなくなった。
正解なんて、まったく浮かばない。
「そんなの簡単よ。ティアナちゃんから、ぎゅーってしたり、ちゅーってすればいいの」
「……いや、全然簡単じゃない」
即答だった。
「まあね。王子も少し大人気なかったし。でも、ティアナちゃんのこと、本当に大切に思ってるわよ?」
「はい。そこは私も認めております」
アリスも静かに頷く。
「……わかってる。わかってるけど……」
言葉が続かない。
嫉妬なんて、考えたこともなかった。
あの人がそんな感情を抱くなんて、想像すらしていなかった。
でも――
(あの時の顔……)
胸の奥が、また小さく疼く。
怒っていたわけでもない。
責めるようでもない。
ただ、苦しそうで。
触れたら壊れてしまいそうで。
「……辛いって、どういう意味なんだろう」
ぽつりと漏らした言葉に、アリスとルイは顔を見合わせ、優しく微笑んだ。
「それはね、ティアナちゃんが一番よく知ってるはずよ」
ルイがウィンクする。
「……え?」
「殿下の“辛さ”は、お嬢様に関わることです。お嬢様がどうしたいかで、きっと変わります」
アリスの声は穏やかだった。
胸の奥がざわつく。
わからない。
でも、このままわからないままではいられない。
「ありがとうね、二人とも」
「ええ」
「はい」
二人が揃って頷く。
「じゃあ、ルイ。あの件、お願いね。忙しいところ悪いけど」
「いいのよ! 楽しそうだし、まっかせなさーい!」
「……じゃあね。王子様と、ちゃーんと話すのよ」
ひらりと手を振り、ルイは軽やかに去っていった。
ちゃんと話す…
その言葉が、静かに胸に落ちる。