第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

悪意

まさか――
刺客まで送り込まれるとは。

……はあ。

だが、これでようやく確信した。
もう後戻りできないところまで踏み込んでいる。

それよりも――ローゼだ。

逃げる気はない。
話すべきことを、正面から話しに行く。

「ローゼ嬢。
少し、お話ししてもよろしいですか?」

声をかけると、彼女はゆっくりと顔を上げた。
優雅に紅茶を口に運びながら、

「ええ、もちろんですわ。
こちらも、お茶会の場所を間違えてお伝えしてしまったようで。申し訳ありません」

――白々しい。

「それで」

彼女は身を寄せ、囁くように問う。

「婚約者候補から、辞退するおつもりは?」

「……ありません」

私は、迷いなく答えた。

「王妃の座そのものには、興味はありません」

ざわ、と周囲の令嬢たちが息を呑む。

私は視線を逸らさず、言葉を重ねる。

「けれど――
ディラン殿下の隣に立つことを、私は諦めません」

胸の奥にあるものを、はっきりと形にする。

「脅されようと、傷つけられようと。
私は、退くつもりはありません」

言い切った瞬間、ローゼの頬がわずかに引きつった。
スーザも唇を噛む様子がみえた。

「……そうでしたか」

その声音は、もう冷たかった。

「では、失礼いたしますわ」

取り巻きの令嬢たちを連れ、彼女は踵を返す。

去っていく背中を見送りながら、私は静かに息を吸った。

――もう、後戻りはできない。

それでも。
私は、ここに立つ。
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