第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
私は一歩、前に出た。
「ティアナ嬢!?」
背後で、震えた声が上がる。
止めようとする声だと分かっていても、もう耳には届かない。
胸の奥で、何かが静かに燃える。
――息を吸う。
「蒼き風よ、導け。ラピスラズリ」
短剣が、魔力に応じて軋むような音を立てる。
刃が蒼い風をまとい、伸び、鋭く、長剣へと変わる。
迷いは、欠片もない。
踏み込む。
狼型の魔宝獣の額――
核となる宝石を、一直線に貫く。
――砕けた。
魔力が暴走し、獣の身体が霧のように崩れ落ちる。
その残滓が肌に触れた瞬間、冷たい悪意が散った。
「……っ!」
だが、その刹那。
背後。
嫌な気配が、重なる悲鳴とともに膨れ上がる。
「きゃあっ!」
振り向いた視界に、影が次々と滲み出る。
垣根の奥、植え込みの陰――
2体、3体……いや、もっと。
――増えている。
喉の奥が、ひりつく。
私は即座に位置を変え、令嬢たちの前に立つ。
「下がって!」
蒼い刃を振るい、一体の喉元を裂く。
だが、横からもう一体が飛びかかる。
回避。
「っ……!」
足が滑りかける。
背後には、怯えきった令嬢たちの気配。
――庇いながらの戦闘。
正直、きつい。
一体を斬れば、別の方向から牙が迫る。
狙いは、私ではない。
弱いところ。
逃げ遅れたローゼ。
「させない!」
踏み込み、蒼風を刃に乗せて横薙ぎに払う。
風圧だけで、獣が吹き飛ぶ。
だが、息が上がる。
魔力の消費が早い。
それに――
完成度が高い。
ただの擬似生命体じゃない。
動きが洗練されている。
私の癖を、見ている。
――上からの視線が、まだ消えない。
これは、試されている。
どこまで守れるか。
どこで折れるか。
歯を食いしばり、剣を構え直す。
私は、退かない。