第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
「きゃ――っ!」

鋭い悲鳴が弾け、令嬢たちが一斉に後ずさった。
恐怖に押し流されるように、整っていた輪が崩れ、足音と衣擦れが混ざり合う。

「み、皆さん、落ち着いてください!」

教育係が声を張り上げるが、その声は震え、説得力を失っていた。
誰も、落ち着けるはずがない。

私は咄嗟にローゼ、そしてスーザへ視線を向ける。

――怯えている。

作り物の表情ではない。
顔色は青ざめ、唇はかすかに震え、指先は胸元を掴んだまま固まっている。

……彼女たちの仕業、ではない?

胸の奥で、疑念がゆっくりと軋んだ。

そのとき。

――視線。

ぞくり、と背中が粟立つ。
皮膚の上を、冷たい刃がそっと滑ったような感覚。

上だ。

ガーデンを見下ろす位置。
木々の影の向こう、建物の縁。
そこから、まるで“品定め”をするような目がこちらを射抜いている。

感情のない、冷たい圧。
生き物の視線ではない。
もっと、重く、逃げられないもの。

……陛下。

理解が胸に落ちた瞬間、
この場が“偶然の事故”ではないことを、私は悟った。

逃げ道は、最初からなかったのだ。
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