第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
「ユウリ……これは、なに?」

灰がかった薄栗色の髪に、淡い灰色の瞳。
彼は、私の有能な執事だ。

「プレゼントですね」

「それは分かる。
 ……なによ、これ」

箱の上に、さらに箱。
積み上げられた贈り物の山を指さす。

「すべて、ディラン殿下からですね」

「はあああ……」

盛大なため息が、口から零れ落ちた。
ディラン殿下…この国の第一王子。
輝くほどの金色の髪、エメラルドの瞳。
容姿端麗、頭脳明晰。


そして私は庭園での出来事を思い出す。

『王妃になれ、なんて言わない。
 俺が好きなのは、“肩書き”じゃない。』

『隣に立てる日が来るなら、その時でいい』

そう言って、ディランは微笑んだ。

――それから、キスをした。

触れた唇の感触を思い出して、
私は無意識のまま、人差し指で自分の唇に触れていた。

……は、恥ずかしい。


「愛されていますね」

ユウリは、どこか楽しげに、穏やかに微笑む。


するとコンコン、と扉が叩かれる。

「はい」

「お嬢様、お客様です」

アリスがそう告げ、一歩横に退く。
その背後から――

「やあ」

噂の人物が、何でもない顔で現れた。

「……ディラン」

「あの! このプレゼント、なんですか」

積み上げられた箱を指さすと、彼はさらりと言う。

「君へだよ」

「私の誕生日は、まだ先ですが……」

「じゃあ、前祝いということにしよう」

「……」

言葉に詰まる私をよそに、ディランは楽しそうだ。

「それで、今日はどうされたんですか?」

「君に会いに来たんだよ」

「王子は、暇なんですか」

「まさか。
 オーウェンを巻くのに、かなり苦労した」

……気の毒に。

「あの、婚約の件ですが」

私が切り出した瞬間、彼は即答した。

「破棄はしないよ?」

「契約上では、もうすべて達成されています。
 不要では?」

「でも、君と俺は恋人同士だろ?」

ニヤリ、と口元が歪む。

「……そうなんですか?」

想いを確かめ合ったのは事実だ。
けれど、「付き合おう」という話は――していない、はず。

「君は、案外冷たいな…
俺の想いが伝わっていないのかな」

ディランはニコニコしながら距離を詰めてくる。
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