追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
 呆れ気味の声だ。でも、その声も好きだ。
 狡いのは私だ。好きだと伝えられないくせに――鵜ノ崎さんへの返事よりも自分が自分に課したルールを優先しているくせに、当の鵜ノ崎さんにはどこにも行かないでほしいと願っている。

 傲慢で我儘で、やっぱり私は性悪なのだ。
 だから不安になる。不安になるのに、鵜ノ崎さんはそんな私の内心なんて知らん顔で、何度だって私に微笑みかけてしまう。ちょうど今、そうしているみたいに。

「他にしてほしいことがあったら言ってくれ。全部やるよ、柊木のためならなんでも」

 ……甘すぎる。
 そんな声で私を溶かしにかかってこないでほしい。けれど、『追うことに決めた』と宣言までしている彼をこの部屋に誘ったのは私自身だ。

「なんでも……じゃあお皿を洗ってもらってもいいでしょうか」
「くそッもっとあるだろ、いや洗うけど」

 妙に悔しそうな鵜ノ崎さんとひとしきり笑い合い、声を揃えて「ごちそうさま」をしてから、使ったお皿をキッチンへ運んでいく。
 不服そうではあったけれど、鵜ノ崎さんは本当に洗い物を引き受けてくれて、提案した私こそ申し訳なくなる。

 でも、彼は私の「やっぱりいいです」という遠慮を受け取ってはくれなかった。
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