追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
「ええと、ではよろしくお願いします」

 深々と頭を下げてお願いする。

「任せろ。ちなみに」
「はい?」
「このキッチンに立ったことある男って俺だけ?」
「もちろん。部屋に人を呼んだのも初めてです」

 念を押すように訊かれ、当然ですとばかりに返すと、鵜ノ崎さんは満更でもなさそうな表情を浮かべてみせた。
 それからほどなく洗い物に取りかかった彼を眺め、鵜ノ崎さんもちゃんと皿とか洗ったりするんだな、とちょっと面白く思う。唇を噛み、私はなんとか顔の緩みを堪えながら問いかける。

「見ててもいいですか?」
「え、いいけど面白さとかないぞ多分」
「いえ、面白さを求めてるわけでは……この部屋で誰かにお皿を洗ってもらうの、なんか新鮮で」

 どうして面白いと思ったことがバレているのかと一瞬焦ったものの、なんとかそれっぽい返事をひねり出す。
 すると、鵜ノ崎さんはやはり満更でもなさそうな顔でスポンジを泡立て始めた。なんで満更でもなさそうなんだ、とまた面白くなってしまう。

 自分の家なのに自分以外の人が皿を洗っている光景が新鮮なのは事実だ。
 シンクに流れる水音をしばらく聞いていたら、つい気が緩んだ。
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