追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
     *


 船を降り、車で自宅へ送っていく間、柊木はずっと窓の外を見ていて目が合わなかった。だが、真っ赤に染まった耳が終始丸見えだった。

 そういう隙が堪らなく可愛い。
 仕事中ならそんな隙は絶対に見せないだろう。今日のデートは彼女にとって、仕事とは別の意味を持っていたのではないかと期待してしまう。

『それに私、今さら姫田さんにどうにかなってほしくなんて、別に』

 あの返事は予想していた。柊木は例の素行不良女になんの復讐も望んでいない。奴のおかげで今の仕事に転職できたから良かった、とさえ考えていそうだ。

 まぁ分かる。柊木はそういう子だ。
 おおよそ調べのついている女の名前は、あえて伏せて話した。自分からボロを出してしまったと理解したときの、柊木の焦りと脆さの滲んだ顔――思い出すだけで口元が緩みそうになる。

 今日の柊木は、最初から最後まで隙まみれだ。
 揺さぶりをかければかけるだけ揺れてくれた上に、最後にはあんなふうに少し動けばすぐにキスできそうな距離まで簡単に俺の接近を許して、だが。
< 88 / 198 >

この作品をシェア

pagetop