追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
 会社を興してからは、色恋沙汰に対する優先順位はさらに下がった。
 仕事のほうが楽しいしやりがいもある、というのが最大の理由だ。

 やっていることは変わらない。
 相手に寄り添って、より良いプランを検討して、提案して、叶える。そうやってニーズに応えていく。そこに信頼以上の感情は必要ない。

 別にわざわざ会社なんか興さなくても、と兄たちからはいまだに言われる。
 がむしゃらに頑張らなくても、無理に走り回らなくても、安定した暮らしは送れる。良家のお嬢さんと結婚して、あらかじめ約束しておいた人数だけ子供を作って……ふたりの兄も、自分たちなりの落としどころを見つけたのだと思う。傍目には幸せな家庭を築いているように見える。

 そういう形の幸せもきっとある。
 自分にもあったのかもしれない。でも駄目だった。

 家族には、三十歳になったら真面目に結婚を検討すると伝えていた。
 その言葉に嘘はなかった。本当にそうするつもりだった。

 でも俺は、その直前、柊木という沼に落ちてしまった。
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