追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
 ほどなくして、柊木のアパートの前に到着した。
 過去にも、遅くなった日などに何度か送ってあげている。柊木は元々、俺に自宅の場所を知られることをまったく警戒していなかった。なぜなら、俺は彼女にガードされてすらいなかったからだ。

 だが、今日は明らかに今までと違う。

「あの、今日は本当にありがとうございました。ではまた」
「ああ。また連絡する」

 車を降りようとする柊木は、妙に落ち着かない様子だった。
 頑なに俺に目を向けないままドアノブに指をかけた彼女の、それとは反対の手を、わざと掴んで軽く引く。

 今度は、手を払われなかった。

 目はまだ合わない。柊木の目は忙しなく左右を泳いでいる。
 逸らさずじっと見つめ続けていると、観念したのか、彼女はやっと俺に視線を向けてきた。

 その瞬間を狙った。
 長い黒髪をひと房手に取って、そこへ唇を寄せる。
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