追う恋はもうしたくない恋愛弱者の私、釣り合うはずのない敏腕ハイスペ社長に追われています
 触れるぎりぎりで視線を上げた。
 柊木は、耳だけではなく、首筋も顔も全部真っ赤だった。

「……悪い。調子、乗りすぎたかも」

 口づけることなく髪から指を放した途端、柊木は「失礼します」と逃げるように車を降りた。

 ……クソが、と堪らず自分に毒づいた。
 怯んでしまった。なんであの状況で怯んだんだよ押せよあとひと息だっただろという心と、あそこで引いていなかったら嫌われていたかもしれない引いて良かった正解だと思う心。真逆の心がふたつ、完全に両立している。

 ハザードランプを点灯させたきり、ちゃんと家まで運転して帰れるかな俺、と不安になった。

 可愛い。
 知らなかった顔ばかり見せてくる。
 もう駄目かもしれない。俺が。

 もっと俺を意識して、さっさと転がり落ちてきてほしい。
 溺れかけた頭をなんとか稼働させ、再びハンドルを握り締めた。
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