刺繍に込めた本当の幸福
仕立て屋のシルヴィン
 これは不思議な町の、不思議な住民のお話。

 シルヴァンは街の洋服屋。とてもおとなしい性格で、細々と、けれど平穏に暮らしていました。
 これといった技術はないのですが、なぜか彼の作る洋服には、ほんの些細な魔法が込められていると噂になっていました。
 
 彼の作る針を通した洋服を着ると、何故だか元気になる。心が落ち着く。明日が楽しみになると言う者もいました。
 そんな彼の密やかな噂を聞いた、お客さんは遥々遠くからも訪れます。

 海に沈む海賊の亡骸に、牛のように大きなフクロウ。
 はるか銀河の天頂から舞い降りた、南十字星。
 彼らはみな、シルヴァンの仕立てる服を求めてやってくるのです。

 そんなある日のこと。
 シルヴァンが密かに想いを寄せる、透明な娘。ルミナがお店に訪れてていました。

 入り口のドアが開くと、誰もいないはずの空間から、リンドウの花を揺らすような優しい風が吹き込みました。

「いらっしゃいませ。今日のご用件は何に致しましょう」

 シルヴァンの心はドキ、ドキ、と不器用なリズムを刻んでます。

「そうね。今日もあの。不思議な洋服は?」

「はい。ありますよ。お客様のためにご準備して待っていました」
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