刺繍に込めた本当の幸福
「シルヴァン。イーハトーブへの切符は、誰かに与えられるものじゃない。君のその『心の指針』が、いつか地図にない線路を描き出すだろう」

 そう告げると、古びた店の蛍光灯がまたたき、チチッと小さな音を立てて消えかけました。

 ふたたび明かりが灯ったとき、そこにはもう、南十字星の姿はありませんでした。

 彼が残してくれた言葉は、シルヴァンに希望という光を与えていました。

 喜びや、感謝、色々な想いが混じり合う、不思議な胸の震え。  

 そんな温かい余韻を残してくれた彼の姿はもうどこにもなく、ただ、彼が座っていた椅子の上には、一粒の星屑のような光る砂がこぼれているだけでした。

 室内のコバルト色の沈黙のなか、卓上に残された赤いハサミだけが、しずかな熱を持って横たわっていました。

 怪しく鋭く光る、そのハサミを見ながらシルヴァンは、「イーハトーブ」と、祈るようにその名を唇に乗せてみるのでした。
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