あの公園で、君に会えたら
7話 揺れる心と、待つ人
あの夜から、数日が過ぎた。
腕を掴まれた感触は消えているのに、帰り道の人影や足音に、まだ胸がざわつくことがある。
自分でも、思っていた以上に怖かったのだと分かる。
そんなある夕方。
病院を出たところで、スマホが震えた。
「奈々、今日迎えに来た。外いる」
颯太からだった。
少し驚いたけれど、それ以上に、ほっとする。
外に出ると、街灯の下で颯太が軽く手を上げた。
「大丈夫そう?」
その第一声が、颯太らしい。
「うん……だいぶ」
そう答えると、彼はほんの少しだけ肩の力を抜いた。
「ちょっと歩こ。公園、寄っていい?」
自然な流れで頷く。
あの公園は、幼い頃から三人で過ごした場所。
最近は、颯太と二人で来ることのほうが多い。
ベンチに座ると、夕暮れの空がゆっくりと紺色へ沈んでいく。
しばらく無言だった。
その沈黙は、昔ほど軽くない。
やがて颯太が口を開いた。
「正直さ、あの日めちゃくちゃ焦った」
奈々の手を、そっと包む。
「車から降りてきた奈々、顔色悪かったし……話聞いて、ほんと怖かった」
責める声じゃない。
ただ、心配している人の声。
奈々は小さく頷く。
「諒がいてくれて助かったよ」
その名前を口にした瞬間、胸の奥がわずかに熱を帯びる。
低い声。
背中に回った腕。
――大丈夫だ。俺がいる。
一瞬だけ、あの夜の体温がよみがえった。
颯太はそれに気づいたのか、視線を少し落とす。
「奈々さ」
少し間を置いてから。
「最近、諒のこと……どう思ってる?」
まっすぐだった。
でも問い詰めてはいない。
確認しているだけ。
それが、余計につらい。
「幼馴染だよ。昔から変わらない」
そう答えながら、自分の声がわずかに揺れたのが分かる。
颯太は何も言わない。
ただ、ゆっくりと距離を詰めた。
昔なら、自然に目を閉じていた距離。
唇が触れる、その手前。
奈々の呼吸が浅くなる。
目を閉じようとする。
でも――
閉じられない。
頭の奥に、あの夜の感触が浮かぶ。
腕の強さ。
低い声。
包み込まれた体温。
――俺がいる。
世界が、一瞬だけ重なる。
奈々の体が、ほんのわずかに引いた。
数センチ。
でも、決定的な距離。
颯太の瞳が揺れる。
ほんの一瞬、傷ついた色が浮かんだ。
それでも彼は、すぐに笑った。
「そっか」
静かな声。
責めない。
問い詰めない。
それが、胸に刺さる。
「奈々、ちゃんと考えてるんだよな」
優しいのに、どこか必死だ。
「俺、待つよ」
間が落ちる。
「奈々が、自分で決めるまで」
奈々の胸が締めつけられる。
そんなこと言われたら、楽になれない。
そんなこと言われたら、逃げられない。
街灯の光が二人の影を伸ばす。
並んでいるのに、
触れているのに、
どこか少しだけ、ずれている。
そのわずかな隙間に、
奈々の迷いが入り込んでいた。
腕を掴まれた感触は消えているのに、帰り道の人影や足音に、まだ胸がざわつくことがある。
自分でも、思っていた以上に怖かったのだと分かる。
そんなある夕方。
病院を出たところで、スマホが震えた。
「奈々、今日迎えに来た。外いる」
颯太からだった。
少し驚いたけれど、それ以上に、ほっとする。
外に出ると、街灯の下で颯太が軽く手を上げた。
「大丈夫そう?」
その第一声が、颯太らしい。
「うん……だいぶ」
そう答えると、彼はほんの少しだけ肩の力を抜いた。
「ちょっと歩こ。公園、寄っていい?」
自然な流れで頷く。
あの公園は、幼い頃から三人で過ごした場所。
最近は、颯太と二人で来ることのほうが多い。
ベンチに座ると、夕暮れの空がゆっくりと紺色へ沈んでいく。
しばらく無言だった。
その沈黙は、昔ほど軽くない。
やがて颯太が口を開いた。
「正直さ、あの日めちゃくちゃ焦った」
奈々の手を、そっと包む。
「車から降りてきた奈々、顔色悪かったし……話聞いて、ほんと怖かった」
責める声じゃない。
ただ、心配している人の声。
奈々は小さく頷く。
「諒がいてくれて助かったよ」
その名前を口にした瞬間、胸の奥がわずかに熱を帯びる。
低い声。
背中に回った腕。
――大丈夫だ。俺がいる。
一瞬だけ、あの夜の体温がよみがえった。
颯太はそれに気づいたのか、視線を少し落とす。
「奈々さ」
少し間を置いてから。
「最近、諒のこと……どう思ってる?」
まっすぐだった。
でも問い詰めてはいない。
確認しているだけ。
それが、余計につらい。
「幼馴染だよ。昔から変わらない」
そう答えながら、自分の声がわずかに揺れたのが分かる。
颯太は何も言わない。
ただ、ゆっくりと距離を詰めた。
昔なら、自然に目を閉じていた距離。
唇が触れる、その手前。
奈々の呼吸が浅くなる。
目を閉じようとする。
でも――
閉じられない。
頭の奥に、あの夜の感触が浮かぶ。
腕の強さ。
低い声。
包み込まれた体温。
――俺がいる。
世界が、一瞬だけ重なる。
奈々の体が、ほんのわずかに引いた。
数センチ。
でも、決定的な距離。
颯太の瞳が揺れる。
ほんの一瞬、傷ついた色が浮かんだ。
それでも彼は、すぐに笑った。
「そっか」
静かな声。
責めない。
問い詰めない。
それが、胸に刺さる。
「奈々、ちゃんと考えてるんだよな」
優しいのに、どこか必死だ。
「俺、待つよ」
間が落ちる。
「奈々が、自分で決めるまで」
奈々の胸が締めつけられる。
そんなこと言われたら、楽になれない。
そんなこと言われたら、逃げられない。
街灯の光が二人の影を伸ばす。
並んでいるのに、
触れているのに、
どこか少しだけ、ずれている。
そのわずかな隙間に、
奈々の迷いが入り込んでいた。