あの公園で、君に会えたら
8話 待つと決めた夜
奈々を家まで送り届けたあと、しばらく車を動かせなかった。
エンジンは切ったまま。
住宅街は静かで、遠くの信号の電子音だけがかすかに聞こえる。
――無事でよかった。
それだけでいいはずだった。
本当に、それだけで。
公園での奈々の表情が頭から離れない。
距離を詰めた瞬間。
ほんのわずかに、体が引いた。
ほんの数センチ。
でもあれは、間違いなく“届かなかった距離”だった。
嫌われたわけじゃない。
奈々は手を握り返してくれたし、
迎えに来てくれてありがとうって言ってくれた。
それでも。
あの一瞬の迷いは、はっきり見えた。
ハンドルを強く握る。
指先が白くなる。
「……そりゃ、焦るよな」
小さく吐き出す。
諒。
名前を思い浮かべただけで、胸の奥が重くなる。
あいつは奈々を助けた。
俺がいない場所で。
俺より先に。
悔しいとかじゃない。
そんな単純な感情じゃない。
ただ。
奈々の中に、確実に入り込んでいる。
それが怖い。
「ダサ……」
笑おうとした。
うまく笑えなかった。
ハンドルに額をつける。
視界が滲む。
最初は疲れてるだけだと思った。
でも違った。
ぽた、と手の甲に何かが落ちる。
一瞬、雨かと思う。
車の中なのに。
遅れて気づく。
――泣いてる。
声は出ない。
嗚咽もない。
ただ、静かに涙が落ちる。
奈々を責めたいわけじゃない。
諒を憎みたいわけでもない。
ただ。
奈々を失うかもしれないって思った瞬間、
どうしようもなく怖かった。
高校二年の春。
告白した日。
手を繋いだ帰り道。
何年もかけて積み重ねてきた時間。
それが、崩れるかもしれない。
そんな未来、想像したこともなかった。
「……それでも、好きなんだよな」
声に出してみる。
少しだけ、呼吸が整う。
好きだから、縛りたくない。
好きだから、選ばれたい。
今日、公園で決めた。
待つって。
奈々が、自分で答えを出すまで。
逃げないって。
涙を拭う。
スマホが光る。
奈々からだった。
「今日はありがとう。
颯太が来てくれて安心した」
画面が滲む。
今度は、少し違う熱。
ゆっくり息を吐く。
返信を打つ。
「いつでも呼べよ。俺、奈々の味方だから」
送信。
胸の奥は、まだ痛い。
でも。
エンジンをかける。
フロントガラスの向こうに広がる夜は静かだ。
静かなまま、ちゃんと戦う。
奈々を好きな気持ちは、消えない。
だから。
逃げない。
この恋を、ちゃんと守る。
たとえ、負けるとしても。
エンジンは切ったまま。
住宅街は静かで、遠くの信号の電子音だけがかすかに聞こえる。
――無事でよかった。
それだけでいいはずだった。
本当に、それだけで。
公園での奈々の表情が頭から離れない。
距離を詰めた瞬間。
ほんのわずかに、体が引いた。
ほんの数センチ。
でもあれは、間違いなく“届かなかった距離”だった。
嫌われたわけじゃない。
奈々は手を握り返してくれたし、
迎えに来てくれてありがとうって言ってくれた。
それでも。
あの一瞬の迷いは、はっきり見えた。
ハンドルを強く握る。
指先が白くなる。
「……そりゃ、焦るよな」
小さく吐き出す。
諒。
名前を思い浮かべただけで、胸の奥が重くなる。
あいつは奈々を助けた。
俺がいない場所で。
俺より先に。
悔しいとかじゃない。
そんな単純な感情じゃない。
ただ。
奈々の中に、確実に入り込んでいる。
それが怖い。
「ダサ……」
笑おうとした。
うまく笑えなかった。
ハンドルに額をつける。
視界が滲む。
最初は疲れてるだけだと思った。
でも違った。
ぽた、と手の甲に何かが落ちる。
一瞬、雨かと思う。
車の中なのに。
遅れて気づく。
――泣いてる。
声は出ない。
嗚咽もない。
ただ、静かに涙が落ちる。
奈々を責めたいわけじゃない。
諒を憎みたいわけでもない。
ただ。
奈々を失うかもしれないって思った瞬間、
どうしようもなく怖かった。
高校二年の春。
告白した日。
手を繋いだ帰り道。
何年もかけて積み重ねてきた時間。
それが、崩れるかもしれない。
そんな未来、想像したこともなかった。
「……それでも、好きなんだよな」
声に出してみる。
少しだけ、呼吸が整う。
好きだから、縛りたくない。
好きだから、選ばれたい。
今日、公園で決めた。
待つって。
奈々が、自分で答えを出すまで。
逃げないって。
涙を拭う。
スマホが光る。
奈々からだった。
「今日はありがとう。
颯太が来てくれて安心した」
画面が滲む。
今度は、少し違う熱。
ゆっくり息を吐く。
返信を打つ。
「いつでも呼べよ。俺、奈々の味方だから」
送信。
胸の奥は、まだ痛い。
でも。
エンジンをかける。
フロントガラスの向こうに広がる夜は静かだ。
静かなまま、ちゃんと戦う。
奈々を好きな気持ちは、消えない。
だから。
逃げない。
この恋を、ちゃんと守る。
たとえ、負けるとしても。