野いちご源氏物語 五一 浮舟(うきふね)
(かおる)(きみ)は姫に本気なのだ。うかうかしてはいられない>
と、(みや)様は無理をしてまた宇治(うじ)へ行かれた。
都ではほとんど消えてしまった雪だけれど、山道にはまだ残っている。
いつも以上に(けわ)しい道のりだから、お(とも)は怖がって泣きそうになっている。

「宮様が宇治へお越しになる予定だ」と右近(うこん)は聞いていたけれど、まさかこの雪ではと油断していた。
深夜にご到着なさったから、浮舟(うきふね)(きみ)と一緒に驚く。
<姫様はどうなってしまわれるのだろう>
と不安だけれど、雪の山道を越えていらっしゃったと思うと感動する。
お帰りいただくわけにもいかないし、もうひとり女房(にょうぼう)を味方に引き入れることにした。

侍従(じじゅう)という若い女房を覚えているかしら。
薫の君が浮舟の君を宇治へお移しなさったとき、(べん)(あま)と一緒にお供をした女房よ。
この侍従は右近と同じように浮舟の君のそばでお仕えしている。
秘密を()らすような人ではないから、
「困ったことだけれど協力してちょうだい」
と右近は頼んで、一緒に宮様を女君の部屋にお入れする。
雪道で宮様のお着物が()れて、()きしめられた香りがあたり一面に広がった。
香りは他の女房に(かく)せないので、薫の君がお越しになったのだと言っておく。
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