完璧王子×天然お嬢様~政略結婚のお相手は、喧嘩も強いんです~



夕食を終えて、お風呂を済ませた頃。

夜の屋敷は、昼間とは違う静けさに包まれていた。

スマートフォンが、小さく震える。

要さんからだ。

〝今こっちに来れるか?〟

短い一文。

それだけなのに、胸がどくんと鳴った。

こんな時間に、どうしたんだろう。

でも――

〝今から行きます〟

そう返信して、部屋を出る。

廊下はしんと静まり返っていて、自分の足音だけがやけに響いた。

要さんの部屋の前で、そっと深呼吸をする。

――コンコン。

「……どうぞ」

中から返ってきた声は、いつもより少し低く感じた。

「失礼します」

扉を開けた瞬間……

「……っ」

思わず、言葉が詰まる。

そこにいたのは、いつものきっちりした格好じゃない要さんだった。

ラフなシャツに、ゆるく落ちた髪。

まだ少し濡れているのか、無造作に整えられた前髪から水気が残っている。

こんな姿、初めて見るかもしれない。

「どうした?」

じっと見てしまっていたのか、少しだけ眉を上げられる。

「い、いえ……」

慌てて視線を逸らす。

心臓が、落ち着かない。


< 258 / 270 >

この作品をシェア

pagetop