この先もずっと願っているよ
卒業式
「卒業生退場」

 その言葉と共に拍手と歓声が鳴り響く。知り合いはかなりいるが、やっぱり喋れないしあまり動けない式は苦手だ。もちろん、しっかり「おめでとうございます」という気持ちで今も拍手を送っている。
 
「ねぇ、今から来る人って(かや)の好きな人じゃない?」

 そう、斜め後ろの席から私に小さい声で話しかけてきた子は、橘真由美(たちばなまゆみ)だ。彼女は私と小学生からの親友だ。

「……うん、そうだね」
「元気だしなよ。まだ、放課後があるんだから」
「うん」
「とりあえず今は先に集中しよっか」

 そうしてまた拍手に集中する真由美。自分から話しかけてきたのに、とも思うけれどそれが真由美なのでツッコミもしない。

 あっ。歩いていた先輩と目が合った。手は流石に振ってはくれなかったけど、微笑んでくれた。ずるいよ、先輩は他に好きな人いるくせに……。そうやって誰にでも愛想を振り撒いてるから、私みたいな人が勘違いするんですよ。

 ––––私が好きな先輩は、今日で卒業を迎えた。たいして話せたわけもない。部活も同じではなかった。ただ委員会が一緒になった。それだけ…なのに、先輩の優しさに私はすぐに心を奪われた。

 先輩のことをたくさん知るために、メールアドレスを勇気を出して聞いた時が懐かしい。私の緊張とは裏腹に『うん。いいよ』って二つ返事で、交換してくれた先輩を思い出す。

「あはは」

 私の声は拍手にかき消される。今、この場面で泣くのは、こんな未練たらたらな私なんかじゃないんだろう。

 でも、分かってた。分かっていたのに、ここまで諦めきれなかったのは、私なんだ。先輩には、好きな人が……彼女がいたのに。最後まで、諦めきれなかった。諦めたくなかった。……でも、私には連絡を聞いた時みたいに、告白する勇気なんて出なかった。

「……おめでとう、先輩」

 最後に、この言葉を先輩の目の前で、伝えられることは私にはできないだろう。笑顔できっと言えないから。でも、今私の口から出た言葉は"本当"の言葉だ。だから、こんな私を許してほしい。

 そうしたら…。会えなくなったら、先輩に対してのこの気持ちだってきっと忘れられるはず。そう強く願う。

*・*・*

「茅さん、先輩が卒業して悲しいのはわかるけど……。まぁ、落ち着いたら椅子の片付け手伝ってね」
「……もう大丈夫です!ビシバシ働きますよー!」
「頼もしい!怪我しないように気をつけてね」
「はい!」

 私が、しばらく立ち止まったままだったから、先生が心配して声をかけてくれた。心配をかけてしまって申し訳ない。…いっぱい動いて先輩のこと忘れよう。

 たくさん動いて、椅子を片付けていると……。

「ねぇ、茅これ手伝って〜!!」
「分かった!今行く!」

 真由美に声をかけられ、その場所に向かう。真由美は、床に敷いてあった緑色のマットを、丸めようとしていた。

「よかった!先生に『あなたは、これ片付けて』って言われたけど、みんな椅子とか片付けてるから私一人で大変だったんだよ!」
「気づかなくてごめん」
「いいって!よし、綺麗に巻こう!」
「うん」

 そう言ってゆっくり緑マットを巻いていく。

「毎年思うけど、緑の床に赤カーペットってなんか色味すごいよね」
「あぁー確かに。小学校も中学校もそうだったから、あまり気にしなかったけど、考えると組み合わせ不思議かも……?なんでなんだろう?」
「えぇ……緑は目にいいからとか?」
「ありそう」

 そんなくだらない話をしているうちに丸め終わった。

「ふぅー。私たちは、もう終わったし他はバレー部がやってくれるらしいから、任せて早く教室に行こ」
「うん、早めに帰らせてもらお」

 そうして、片付けをして教室に戻った。みんなも同じくらいのタイミングで片付けを終わらせたので、ホームルームもすぐに終わった。

「真由美、この後どうする?ご飯食べに行く?」
「え?」
「え?」

 真由美は何に驚いているんだろ?驚くことなんてなにも無いはずなのに……。

「茅、先輩に会いに行かないと!」
「えぇ…」
「なんでそんなに嫌そうなの?今日を逃したら、滅多に会えなくなるんだよ?」
「先輩は他に好きな人がいるし」
「いやいや、ありえないって」
「それがあり得るんだよ」
「実際に聞いたり、見たの?先輩の"好きな人"」
「……見たよ」

 気持ちが暗くなる。また、あの時の記憶を思い出す。

 先輩の教室を通った時、女の先輩と楽しそうに話していたところを。先輩は少し退屈そうだったけれど、その女の先輩と話している時には、私が見たこともないような笑顔を見せていた。

 だから確信した。あぁ……先輩はあの人が好きなんだと。もしかしたら、付き合っているのかもしれない。直接聞くことは怖くて、結局今も、もやもやした気持ちのまま。

「うーん……。とりあえず!何がなんでも放課後は先輩達を祝う!好きな人に会えとは言わない!私が部活の先輩を祝いたいから、一緒に残って!最後だし!お願い」
「まぁ、それなら。私も今までお世話になってきたし」
「やった〜!!じゃぁ、玄関で待つぞー!」
「ちょっと待って!」

 真由美は、すぐに廊下に出て走っていた。私も慌てて廊下に出るが、先に行っていたはずの真由美は、少し先の廊下で待っててくれていた。
< 1 / 7 >

この作品をシェア

pagetop