この先もずっと願っているよ
出会ったあの頃から
 ずっと好きだった後輩と付き合えた。その事実が鼓動を早くさせる。

 初めて会ったあの日は、委員会の集まりではなかったんだ。茅ちゃんは忘れているけれど……。あの時から優しい茅ちゃんにだんだん惹かれていったんだよ。

 まだ、髪はボサボサでだらしなかった。それ以前に自分が本当によく分からなかった。そんな、あの頃に本当は出会ってたんだ。

*・*・*

「中学生の方!保護者の方こちらに集まってください」

 今日は中学生が来る学校見学の日。俺は友達である(あきら)の助っ人で案内係を引き受けた。そうして、二人で高校の説明をする。

「そちらのお二人さん、早くこっち来てねー!」
「すみません!」

 彰が話しかけた二人がこちらに駆け寄る。

「ほら!真由美、ちゃんと高校生の人たちについていかないと!怒られるよ!」
「大丈夫だよ!それより、あそこすごいよ〜」
「あっ、待ってってば!」

 えらい、元気な中学生だな。でも、あのまま二人を放っておくと、他の人たちに案内ができない。

「彰、俺があの二人を案内するから後の案内お願いできない?」
「大丈夫なのか?頼んだ立場で申し訳ない」
「いいよ、俺がやりたくてきたんだし」
「ありがとう!わかった、後で合流しよう」
「お願い」
「よし、次はみんな大好きな購買に向かいます!」

 彰の方は大丈夫そうだし、あの中学生二人組のところに向かおう。

「ほら、真由美みんないなくなっちゃったよ」
「うーん、でもここすごい気になるんだよね」
「後でお願いして、また見にこようよ!ね?」

 ずいぶん困っているなあの女の子。あの真由美と呼ばれた女の子は外に置いてある椅子をみている。

「どうかされましたか?」
「あっさっきの高校生さん。すみません!迷惑をかけて!すぐに戻りますから」
「いや、大丈夫ですよ。終わりの時間までに戻っていければいいので。それより、その椅子がどうかされましたか?」
「この椅子色使いがすごい独特で、気になるんです」

 そういえば、この椅子は去年卒業した先輩が卒業制作で置いていったものだと言っていたはず。

「それは、過去の先輩たちが作ったものなんですよ。形もよく見るとほら、この足の部分猫が描いているんですよ」
「本当だ!可愛い!」
「他にも、先輩たちが作ったものが沢山ありますよ」
「見たーい!」
「じゃぁいきましょうか」
「はーい!」

 真由美さんは元気に歩き出した。一方もう一人の中学生はまだ、不安そうな顔をしている。

「大丈夫ですよ」
「でも、かなり迷惑をかけていますし…私たちのせいであなたが怒られるのも」
「ここだけの話なんですけど、俺かなり先生と仲がいいので多少悪さしても許してもらってるんですよ。だから、些細なことでは怒られませんよ。せっかく来てくださったのですし、楽しみましょう!」
「…はい!」
「じゃぁ、学校では有名なあの場所にまず、いきましょうか」

 タイルでできた床の模様。文化祭で作られた看板や衣装。小説が沢山入っている左右非対称な本棚。先生に今だに消されていないのが謎な、苗字が書かれた壁。

 そんな、少し変わった先輩たちが作った作品はどの場所にも置いてあるので、案内はとてもしやすかった。

「まだまだありますが、もう戻らないといけないですね。真由美さん、茅さんもう戻れますか?」
「はい!すごい、楽しかったです!ね、茅」
「うん!本当にありがとうございました」
「いえいえ、楽しんでくれて何よりです」
「あっ!今さっきの先輩だ!」

 真由美さんはそう言って合流した彰の元に駆け寄る。

「元気ですね」
「そうなんですよ。元気なのは彼女の取り柄なんですけど、周りを見れないところもあって」
「茅さんはえらいですね」
「私は偉くないですよ。大変だけど真由美といるのもすごく楽しいんです!だから、当たり前みたいな」

 少し照れたように言う彼女に羨ましいと感じる。自分なら、きっとめんどくさくなり途中で逃げ出してしまうだろう。友達だからと言っても、自分ならできない。楽しめる彼女が羨ましい。

「これから、受験頑張ってくださいね」
「はい!私、先輩のような高校生になりたいです!」
「わ、私ですか?」
「先輩みたいな、優しくて頼りがいのある高校生になれるために頑張ります!では今日は本当にありがとうございました!!」

 俺の目の前から去っていく茅さん。俺は本当に優しいのだろうか。今日だって100%の善意で案内役を引き受けた訳でもない、先生と仲良くしているのだってその方が楽だからだ。

 そんな優しくない(空っぽな)俺が、本当に彼女にとって優しくて憧れる存在になれたのだろうか。
 
 振り返った彼女と目が合う。胸が熱くなる。

 たった数時間。されど数時間。変わろう、彼女の憧れである人であるために。花蓮に聞けばきっといいアドバイスをくれるはず。

「ちょっと誰か手伝ってくれない?」
「手伝います」
「尚人さんありがとう!じゃぁ、このパンフレットをお願いしたくて」


*・*・*

「初めまして!私、葉山茅(はやまかや)といいます!一年間お願いします!」

 一緒の委員会に入ったのか……。入学式で見かけて気にはなったけれど、話しかけなかった。

「先輩、初めまして」
「え?あ、初めまして」

 彼女に急に話しかけられた驚きと、忘れられていた事実の寂しさに、変に言葉を返してしまった。

「優しそうな先輩と一緒の委員会でよかったです!」
「優しそうに見える?」
「はい!優しいそうというか、優しいですね。今も私と話してくれて!」

 あの時と同じ明るい微笑みに胸がドキッとした。もしかして、これが恋というもの?たった二回しか会ってないのに?……気のせいかもしれない。

 彼女に言われたことが嬉しくて、それで、一年でこれまでの自分を変えたくて……。だから、きっかけをくれた彼女が特別に見えるだけだ。

「茅さんにそう言われて嬉しいよ」

 そう言って照れる彼女に可愛いと思ってしまった。いや、この感情は小動物などに可愛いと思う気持ちだ。現に彼女は自分よりも背が低く、彼女が動くたびに揺れる長い髪の毛が、ふわふわしていて犬を思い出させる。だから、これはきっと恋などではない!

 自分の気持ちにそう決めてから、何ヶ月も過ぎた。彼女に、茅ちゃんに会うたびにいつもよりドキドキして、自分では否定できなくなった。だから、別の人に否定してもらおう……そう思い花蓮に今までのことを話した。

「––––それは、絶対恋よ!というか、恋以外何があるのよ!」
「それは、小動物に対する感情みたいな」
「いや、ありえないでしょ……。まぁ、尚人が昔からそういう性格なのは知ってたけど」

 呆れた様子の花蓮……。やっぱり俺は、恋をしているらしい。自覚はある。でも、俺なんかが恋していいのか?

「言いたいことがあるなら、はっきり言ってよね!そうやって、考え込んでしまうから毎回苦しい思いするの」
「分かってるよ」
「分かってないでしょ」
「ごめん」
「いいから、で?初恋に気づいてよかったのに、何に悩んでるのよ?」
「それは、恋をしたことがないのもそうなんだけど。おれともし付き合うことになったら、ちゃんと恋人としてできるか、不安なんだ。それに、年齢の差のせいで先に俺が成人してしまうから」

 茅ちゃんばっかりを不幸せにさせてしまう。そんな気がして前に進めない。

「なるほど……考えすぎてるね」
「普通の考えだろ?」
「まぁ、人それぞれだから何にも言えないけど……でも、まだ付き合ってないのに考えすぎなのよ。幸せにできるかなんて、実際に付き合ってみないとわからないじゃない。好みだってまだ全然知らないんでしょ?」
「うん」
「じゃぁ、まずは付き合うことを考えなさい!じゃないと私の恋人呼んで、あんたのその頭に情報を叩き込むわよ」

 花蓮の彼氏といえば、頭がいいが恋人のことになるとネジが吹っ飛ぶ、で有名な他校の人じゃないか。そんな人を呼ばれたら俺は確実に無事でいられないはずだ。

「卑怯だよ」
「あら?じゃぁ無駄なこと考えてないで、とっとと彼女と付き合うためにどうすればいいか、考えるわよ」
「ふぅ……分かったよ」
「じゃぁ、茅ちゃんについて知ってること教えて」
「あぁ、俺が知っている限りだと茅ちゃんは写真部に入っている。写真部には仲のいい友達がいて……」

 俺が知っている限りの情報を全て話し切った。

「まぁ、ざっとこんな感じじゃないかな」
「……尚人が茅さんのことが好きだってことは、伝わったわ。あなたの話でもう休憩時間もないじゃないのよ」
「ふふっ、茅ちゃんのことはちゃんと伝えたかったからね」
「尚人、絶対にその狂気じみた微笑みは茅ちゃんに見せない方がいいからね」
「なんで?」
「命を狙われるって勘違いするくらいの顔だからよ!」

 少し笑ったくらいで大袈裟な。まぁ、恋愛としては先輩の彼女がいうなら、アドバイスとして受け取っておこう。

「分かった」
「とりあえず、連絡先は交換しているみたいだし、こまめに話しかけなさい」
「そうするよ」
「頑張ってよね!幼馴染が初恋を叶えられないなんて、なんて声かけたらいいか分からないから」
「はいはい、断られないように頑張りますよ」

 そうして、俺はあれこれ頑張って茅ちゃんにアプローチするが、卒業式の日まで進展は何もなかった。

*・*・*

 卒業式も終わり、みんな今日はどこに行くかの話をしているみたいだ。でも、俺はそれどころじゃなかった。

 茅ちゃんに告白できなかった。

 つい先ほどの卒業式で彼女と目が合ったのが嬉しくて、微笑んでしまった。そんな、終わり方で茅ちゃんとさよならすることなんてできない。

「どうすれば、いいんだろう」
「何が?」
「彰…その、茅ちゃんに今後どうやって関わろうって」
「もしかして、お前まだ告白してなかったのか?」
「……」
「頑張ったんだよな。うん」

 あの彰にでさへ憐れまれるくらい、俺は恋愛に向いていていないんだろうな……。

「結構話とかしたんだけど、茅ちゃん気づいてくれなくて」
「まぁ…気づいてもらえないのはそうだろ。実際に好きだって言わないと、匂わせていても最後まで付き合うことは難しいんじゃないか?」
「返す言葉もございません」
「俺はこの後、部活のみんなで遊びに行くから手伝うこともできないし…すれ違いは苦しいからな!よし、真由美さんに連絡してみるか」

 携帯を取り出してメールをしているみたいだ。しばらくして……。

「今日はこの後近くのショッピングモールで遊ぶみたいらしいぞ、茅さんと真由美さん」
「そうなの?」
「ここは、偶然を装って会いに行ってこい!」
「大丈夫なの?なんか悪いことしてるみたいで」
「恋愛は情報戦だ!使えるものは使ってけ!」
「わ、わかった」

 そうして、言われる通りに俺は事情を知っている友達と一緒にショッピングモールへと向かった。

 俺が茅ちゃんが好きだって、情けないバレ方をしたけれど、茅ちゃんと付き合えることができた。花蓮と彰、そして真由美さんにはしっかり感謝しないと。

 卒業はしたけれど、茅ちゃんと共に歩む人生はきっとこれからもっと続いていくんだろう。そう、願おう。
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