きみが春なら

Side.H

「ん、っ」
覆い被さってきた彼に突然激しくキスされたと思ったら、ネグリジェの裾から手が入ってきた。
合わせた胸元も乱暴にめくられる。

「ロ、ロレンツォ様。体調が」
「ああ、すこぶる悪い。……お前が癒せ」

低い声でそう呟き、強く首筋に吸いついてくる。
彼の雰囲気はさっきまでと全然違う。

「や……っ」

思わず押し戻そうとした手は、すぐにベッドに縫い止められた。
「ここまでお預けだったんだ。もう待たん」
ロレンツォ様は私の口をキスで塞ぎ、胸に置いた手に力を込めた。


── 自分の身に起きているのに、
どこか俯瞰して見ている自分もいた。
気がついたら二人とも裸で。

「は、……」

彼の吐息が。体が。熱すぎて。
痺れた頭が動かない。

「足、開け。もう少し」
「……っ」

叫びたかった。でも声が出なかった。
受け入れなきゃいけない事はわかってるのに本心が邪魔をする。
体が震えて。鼻の奥がつんとして。

「ハル」

不意に耳を舐められ、一瞬力が抜けた。
ロレンツォ様が私の膝を割り間に体をねじこんでくる。
至近距離で見つめ合う。

「あいつには……どんな風に抱かれていた?」

思わず目を見開いた。


「く、」


眉をひそめ声を漏らすロレンツォ様を下から呆然と眺めた。
繋がっている事だけが感覚としてわかる。


── 『好きだよ。愛してる』


だめ。
思い出しちゃ、だめ。
重ねちゃ、だめ。

爪を掌に食い込ませ、耐え続ける。

泣いている気がするのに涙は出ていなかった。

バラバラになったんだ、と思った。
体と心が。
ばらばらになっちゃったんだ。


「覚悟はあると。言ってたな?」
熱のある王子様の据わった目。


「このまま── いいな?」


もう理解が追いつかなかった。
苛々をぶつけるみたいに。激しく、揺さぶられる。

「……」

やがて、ロレンツォ様の動きが止まって。
汗ばんだ体を私に重ねた彼は、荒い呼吸を繰り返す。

電気が点いたままだった事が無性に悲しかった。
まだ私の上にいる彼を抱きしめるふりをして、流れてしまった涙をこっそり拭った。


……大丈夫、
大丈夫。

心はあの人のものだから。
ずっとあの人のところにあるから。


それだけで、私は

── 大丈夫。
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