きみが春なら
しばらくそのままの姿勢でいるうち、ますます体が辛くなってきた。頭も関節も酷く痛む。眠たい訳ではないのに、どこか意識が揺らいでしまう。

「熱が上がりましたね」
そう言ったハルが、俺の額と自身の額を合わせた。

「ほら。こんなに熱い」
「っ、」

一瞬だが鼻先が触れ合い、不意打ちの刺激にどきりとする。

「冷たいお水、貰ってきますね」
すっ、と前髪が直され、体が離れようとした時。


『── ハルは。絶対に渡さない……!』


全く突然そんな声が胸に蘇り、驚いた。
牢で聞いた男の声だと、一拍後に思い出す。

「……」

── 妻が俺と結婚したのは、あの男を助ける為。ただそれだけだった。けしかけたのは俺だ。

こんなに警戒心が薄いのも
きっと普段から、そうだったからで。

俺がまだ見ていない顔も。
あの男は知っているんだろう。


「ひゃ、」

手首を掴んで引き戻し、よろけたハルをベッドへ倒す。そのまま覆い被さるように体を跨いだ。

「ロレンツォ様?」
戸惑った瞳に自分が映る。

虚しさと、苦しさと。
飲み下せない悔しさ。
ごちゃ混ぜで襲いかかってくる感情の波に溺れそうだ。

「本当に……何なんだ」

ぷつん、と。
何かが切れる音は俺にしか聞こえない。


今夜の事は全て。

全て、熱のせいだ。
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