冷遇令嬢、最恐軍医に嫁ぎました~大正深愛綴り~

「えぇ、そうよ。軍の高官様が是非とも岩永家にと、口利きして下さって」

 継母は扇子をぱちんと閉じ、紫乃を見下ろすように言った。その隣で、蘭子がくすくすと笑っている。

「お母様、篁家と言ったら、『黄泉(よみ)()』と噂のある軍医様よね? 躊躇なく腹を切裂くと聞いたことがあるわ。そんな恐ろしい方、私、……絶対に嫌ですわ」
「そうねぇ。蘭子には荷が重いわね」

 継母はわざとらしく溜息を吐き、ゆっくりと紫乃へ視線を向けた。

「紫乃。目が悪いお前には、ちょうどいい相手よ。軍医なのだから、お前の目も治して貰えるかもしれない」

 生母が亡くなってまもなくして、妾だった洋子が女主人の座についた。多忙な父親は家を留守にしがちで、家の全てを継母に任せている。正妻の娘というだけで、継母は容赦なく紫乃を嫌った。
 一日中使用人のようにこき使われ、食事も満足に与えてもらえず痩せ細り、精神的に追い詰められた紫乃は、次第に視力が悪くなっていった。そんな紫乃を継母は、一度も医者に見せようとしなかった。

 紫乃の胸の奥が、きゅっと縮む。
『黄泉の手』――〝現世との繋がりを切られ、あの世の人になると恐れられる〟男性に、蘭子の代わりに嫁がせたいことくらい、紫乃でもわかる。

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