冷遇令嬢、最恐軍医に嫁ぎました~大正深愛綴り~
「……私が、務めを果たせるのであれば」
その返事に、継母は満足げに鼻を鳴らした。
「お前のような出来損ないを貰って下さるなど、有難いことよ」
継母がそう口にすると、蘭子がくすりと笑う。
「お姉様なら、どんな方でも同じでしょう? どうせ、よく見えていないんですもの」
その言葉は、刃物のように鋭く、紫乃の胸を抉った。
(この家に、私の居場所などないのだから……)
自室に戻った紫乃は、箪笥の引き出しをそっと開けた。折り畳まれた着物の間に手を差し入れ、とある物を取り出した。
紫乃が十歳の時に亡くなった母の面影は、もう家のどこにも残っていない。
母の遺品は「古くさい」と言われ、ほとんど処分された。唯一、白檀の櫛だけは、紫乃が必死に隠して守った。
仄かに蜂蜜のような甘い香りと優しい木のぬくもりが、櫛から伝わってくる。
母との思い出が蘇る。――紫乃の髪は、本当に綺麗ね。
(お母様……私、嫁ぐことになりました)
母親の形見を胸に当て、紫乃は静かに目を閉じた。