引きこもり令嬢は皇妃になんてなりたくない!~強面皇帝の溺愛が駄々漏れで困ります~5
答えたエレスティアは、感極まったのか彼の瞳が潤むのを見た。
(あ)
どうしよう、そうエレスティアが思った時、人々の視線を思い出したみたいにジルヴェストが抱き締めてきた。胸元に顔をぎゅっと押し付けてくる。
愛おしさが込み上げ、エレスティアも彼の頭を愛おしく抱いた。
言葉は要らなかった。全身で喜びを共有し合う。
「懐妊されたばかりなんですよっ」
「皇妃様を降ろされてください」
周りから男たちが慌ててそう告げてきた。見てみると、側近も二人いる。
アインスがため息交じりに言った。
「ジルヴェスト様、いえ陛下、お言葉に従って皇妃を速やかに降ろしてください」
「初の御子です! 何も問題がないようっ、安定期までは、そういうことは禁止したほうがよいと思います!」
「えっ」
寝耳に水な様子で、ジルヴェストがそう断言した側近を見た。
慌ただしい数時間を経たのち、エレスティアはようやく自分の公務に戻ることができた。回ってきた書類の山の確認へと取り掛かる。
アインス、アイリーシャ、と一人ずつ書類を必要な部署に運ぶため退出していく。
忙しい中で、テーブルでおやつを食べ、満腹になって眠る自由なピィちゃんの姿は、皇妃執務室に出入りする補佐官たちの心の癒やしとなっていた。
「子ができたそうだな。おめでとう」
エレスティアが一人になって間もなく、斜め後ろの窓から日中の日差しで暖められた、秋の空気が優しく吹き込んだ。
振り向くと、ふわりと浮遊魔法で窓の縁に腰かけたのは、古代王ゾルジアだ。
紺の上質なローブふうの衣装が揺れている。カフスで軽く後ろにまとめられた髪は、毎日鏡で見ている自分と同じハニーピンクだ。
みんな『双子みたいにそっくりっ』と言うが、エレスティアにはその実感がない。
彼はエレスティアのように華奢ではないし、幼さがうかがえるような顔立ちではないし、高身長で、何よりとてつもなく美しい男性だった。
「ありがとうございます。それもこれも、あなた様のおかげです。私が、普通の妻として過ごせるようにしてくださったから」
エレスティアは手を止め、幸せいっぱいに古代王ゾルジアへ微笑みかける。
エレスティアの魔力は、王戦というものが存在していた古代人と同じらしい。そのうえ、古代王たちが存在していたどの時代の中でも謎が多く、そして最強と言われていた古代王ゾルジアとまったく同じだった。
願えば魔力は動き、考えるだけで魔法が展開されてしまう。
ある種の暴走に近い。
それが攻撃に転じてしまったらと恐れていたところ、古代王ゾルジアが現れ、自分がそんなことはさせないからと約束してエレスティアを安心させてくれた。
「私は君の心獣のような存在になっている。喜びが伝わってくる。私は膨大な魔力のために感情を抑制したが、今は君を通して、嬉しさや楽しさや未来への希望へ胸を躍らせる感覚を味わっている――私のほうこそ『ありがとう』」
彼の口元に浮かんだ優しい微笑を見れば、心からそう伝えてくれていることが分かる。
エレスティアの〝最大の攻撃魔法〟を受け持ってくれた人。
現代に蘇(よみがえ)った彼は、エレスティアと一心同体。エレスティアが死ぬ時まで一緒にいる。ピィちゃんと同じだ。
だから彼は、自分は心獣のようなものだと周囲に説明していた。
当時のまま蘇ったことを知っているのは、一部の者たちだけだ。
「君が報告した時、小鳥もかなり喜んでいたな」
「はい。ようやく安心してくれました」
「うむ。小鳥の姿の時には、心獣としての機能がまるで働かないようだからな」
ジルヴェストと別れたあと、ピィちゃんと再会した。その際に心配しきって周囲を飛び回り、見てくるピィちゃんに報告したら、『えっ、子供ができたのっ』と衝撃を受けたような顔をしていた。
他の心獣とは少し違う、エレスティアの大切な心獣。
精神も幼体化しているらしいその感情豊かなところも、エレスティアは愛おしい。
安心しきって、今はテーブルのほうで腹を出して眠っていた。
「まぁ不思議ではありますけれど、いずれ大きくなったピィちゃん自身が教えてくれることもあるのかもしれない、とも思っているんです」
「ふむ」
古代王ゾルジアが、少し考えるようにして言葉を切った。
彼は当時のあらゆる物事や真理を理解している人だ。エレスティアに負けず読書家で、そのうえ知識もどんどん吸収しているらしいとは報告を受けている。
彼は、ピィちゃんについていくつか考察を持っているのではないか。
エレスティアは聞きたくなったものの、ふと、こちらに視線を戻した彼が、じっとお腹を見つめたのが気になった。
「何か?」
「うむ。先に教えてしまうのも、母と父の楽しみを奪うというものだな」
(あ)
どうしよう、そうエレスティアが思った時、人々の視線を思い出したみたいにジルヴェストが抱き締めてきた。胸元に顔をぎゅっと押し付けてくる。
愛おしさが込み上げ、エレスティアも彼の頭を愛おしく抱いた。
言葉は要らなかった。全身で喜びを共有し合う。
「懐妊されたばかりなんですよっ」
「皇妃様を降ろされてください」
周りから男たちが慌ててそう告げてきた。見てみると、側近も二人いる。
アインスがため息交じりに言った。
「ジルヴェスト様、いえ陛下、お言葉に従って皇妃を速やかに降ろしてください」
「初の御子です! 何も問題がないようっ、安定期までは、そういうことは禁止したほうがよいと思います!」
「えっ」
寝耳に水な様子で、ジルヴェストがそう断言した側近を見た。
慌ただしい数時間を経たのち、エレスティアはようやく自分の公務に戻ることができた。回ってきた書類の山の確認へと取り掛かる。
アインス、アイリーシャ、と一人ずつ書類を必要な部署に運ぶため退出していく。
忙しい中で、テーブルでおやつを食べ、満腹になって眠る自由なピィちゃんの姿は、皇妃執務室に出入りする補佐官たちの心の癒やしとなっていた。
「子ができたそうだな。おめでとう」
エレスティアが一人になって間もなく、斜め後ろの窓から日中の日差しで暖められた、秋の空気が優しく吹き込んだ。
振り向くと、ふわりと浮遊魔法で窓の縁に腰かけたのは、古代王ゾルジアだ。
紺の上質なローブふうの衣装が揺れている。カフスで軽く後ろにまとめられた髪は、毎日鏡で見ている自分と同じハニーピンクだ。
みんな『双子みたいにそっくりっ』と言うが、エレスティアにはその実感がない。
彼はエレスティアのように華奢ではないし、幼さがうかがえるような顔立ちではないし、高身長で、何よりとてつもなく美しい男性だった。
「ありがとうございます。それもこれも、あなた様のおかげです。私が、普通の妻として過ごせるようにしてくださったから」
エレスティアは手を止め、幸せいっぱいに古代王ゾルジアへ微笑みかける。
エレスティアの魔力は、王戦というものが存在していた古代人と同じらしい。そのうえ、古代王たちが存在していたどの時代の中でも謎が多く、そして最強と言われていた古代王ゾルジアとまったく同じだった。
願えば魔力は動き、考えるだけで魔法が展開されてしまう。
ある種の暴走に近い。
それが攻撃に転じてしまったらと恐れていたところ、古代王ゾルジアが現れ、自分がそんなことはさせないからと約束してエレスティアを安心させてくれた。
「私は君の心獣のような存在になっている。喜びが伝わってくる。私は膨大な魔力のために感情を抑制したが、今は君を通して、嬉しさや楽しさや未来への希望へ胸を躍らせる感覚を味わっている――私のほうこそ『ありがとう』」
彼の口元に浮かんだ優しい微笑を見れば、心からそう伝えてくれていることが分かる。
エレスティアの〝最大の攻撃魔法〟を受け持ってくれた人。
現代に蘇(よみがえ)った彼は、エレスティアと一心同体。エレスティアが死ぬ時まで一緒にいる。ピィちゃんと同じだ。
だから彼は、自分は心獣のようなものだと周囲に説明していた。
当時のまま蘇ったことを知っているのは、一部の者たちだけだ。
「君が報告した時、小鳥もかなり喜んでいたな」
「はい。ようやく安心してくれました」
「うむ。小鳥の姿の時には、心獣としての機能がまるで働かないようだからな」
ジルヴェストと別れたあと、ピィちゃんと再会した。その際に心配しきって周囲を飛び回り、見てくるピィちゃんに報告したら、『えっ、子供ができたのっ』と衝撃を受けたような顔をしていた。
他の心獣とは少し違う、エレスティアの大切な心獣。
精神も幼体化しているらしいその感情豊かなところも、エレスティアは愛おしい。
安心しきって、今はテーブルのほうで腹を出して眠っていた。
「まぁ不思議ではありますけれど、いずれ大きくなったピィちゃん自身が教えてくれることもあるのかもしれない、とも思っているんです」
「ふむ」
古代王ゾルジアが、少し考えるようにして言葉を切った。
彼は当時のあらゆる物事や真理を理解している人だ。エレスティアに負けず読書家で、そのうえ知識もどんどん吸収しているらしいとは報告を受けている。
彼は、ピィちゃんについていくつか考察を持っているのではないか。
エレスティアは聞きたくなったものの、ふと、こちらに視線を戻した彼が、じっとお腹を見つめたのが気になった。
「何か?」
「うむ。先に教えてしまうのも、母と父の楽しみを奪うというものだな」