花束に囲まれた君が残したもの。

ー明日の景色ー

眩しい朝の光が僕の顔に目掛けて窓から差し込む。
布団を寄せて光を遮ろうとしたが、動くタイミングで目覚まし時計がなる。

寝ぼけ眼差しで時計を掴み、目覚ましを止める。
10月24日土曜日9:00…

「時間って残酷だ…」

僕の時間は昨日に囚われたたま、暦だけは何事も無かったかのように淡々と進んでいく。

ムクっと立ち上がり、部屋を出ようとする。

「痛っ!!」

急に足の裏に激痛が走った。
足元を見るとそこにはカメラが転がっていた。

「あっ…」

僕は焦ってカメラが壊れていないか確認するためカメラを拾い電源を入れようとした。

…やっぱりやめよう。

僕はカメラを下ろした。
電源をつけたら今までの写真を見返すことになる。
とてもじゃないけど今の僕にはまだ見ることが出来なかった。

あの時あの瞬間のあの思い出。
写真を見返している訳では無いのにたくさんの日常がフラッシュバックする。

「…外に出かけよう。」

家にいても色々考えてしまう。
少しでも気分転換をしようと思い、朝食を食べると家を出た。

外に出ると秋にしてはとても暑い日だった。
まるであの流星群を見るために準備した前夜祭を思い出させるかのように。

それでも、歩きたかった。
僕は何も考えず進む。

車の音、子供がはしゃぐ音、人の足音。
色んな音が鳴り響く街の中にいても、僕には何も聞こえなかった。
遠くの山の色、アスファルトの色、人々の服の色、僕にはまるでモノクロの世界のような色にしか見えなかった。

そんな中をただただ、ひたすらに歩く。
 
気づけば家から少し川岸まで来ていた。
この川岸は僕が小さい頃から外で本を読みたくなった時に来る場所だった。

僕にとっては心が落ち着く場所だ。
昔ハギとも来たっけ…そう思いながら、川岸近くの原っぱで僕は仰向けになり、空を見上げる。

少し冷たい風が僕の頬を掠めた。

「…ハギ。」

正直僕には何も出来ない。
ハギを信じて待つしかないのに、何がこんなに僕の胸をざわめきさせるのだろうか。

「…」

僕は癖で持ってきていたカメラに手をかけ、電源をいれた。
カメラは壊れていなかった。アルバムを遡る。
最後に集まったヒマの手伝いをした昨日から流星群を見たあの日まで。

みんなの笑顔が、今の僕の心にはとても痛かった。

「全部元通りになってくれ…」

僕はらしくもなく写真の中の流星群に祈った。
今は神頼みでも星頼みでもいい。
あの日常以上のものはいらないから、元に戻して欲して欲しい。
それだけだった。
 
徐々に写真が見れなくなった。
僕は溢れそうになっていた涙に気づかなかった。
袖で涙を拭う。目を擦りすぎて何度か瞬きをする。

「…あれ。」

僕は一息深呼吸をすると、もう一度写真を見返す。
写真に違和感を感じたのはツユちゃんだった。
夏のお昼時に撮ったはずの写真に長袖を着ているツユちゃんの姿があった。

「夏だよな…」

他にも写真を見返す。
山小屋で演奏を聞いた日の写真。
あの時は髪を括っていて、しっかり見えていなかったが写真で見ると少し白髪に見えた。
 
「そういえば…」
胸騒ぎのような違和感の理由がわかった。
 
昨日病院の待合所にヒマといた時、入口が開く音はしてないのにツユちゃんが来た。
最初は先に来てたのかと思ったけど、妹さんに初めましてって挨拶してたよな。

それに…あの看護師さん、ツユちゃんのこと「ツユさん」と呼んでた…なぜ名前を知っていたんだ…

あの病院でツユちゃんに会った時、彼女はまるで「全てわかってる」ようだった。

「まさか…だよな。」
僕は考えすぎだと言い聞かせて、また川瀬を歩いた。
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