花束に囲まれた君が残したもの。
ー金木犀ー
「飛行機ー!」
そう叫んでいたのは小さな男の子だった。
左手には点滴を持っている。
他にもベンチに座るご老人や20歳くらいの年上の人まで、そして共通して病院着で手には点滴を持っていた。
金木犀の匂いが中庭を包む。
そんな様々な人が憩うこの場所はとても暖かく感じた。
「あの飛行機どこに行くんだろうねー。」
聞き覚えのある声だった。
木の影で姿は見えなかった。
青空の下にいる男の子の隣に車椅子に乗った女の子がいた。
髪の毛は白く、空に透き通るようで。
風に乗ってなびいていた。
空を見ながら笑う彼女はとても見覚えのあるものだった。
「ツユちゃん…」
僕がそうつぶやくと彼女は驚いた表情で振り返った。
そして少しして微笑むと
「へへっバレちゃったか。」
白い髪の毛をいじりながら笑いながら答えた。
そのいじっていた髪の毛を掴むと、
「白髪、どう?似合う?」
そう言って笑いながら僕に尋ねる。
「綺麗だ。」
僕は魅了されていた。
すごく美しかった。
かわいかった。
華麗だった。
僕が応えるとツユちゃんは少し顔を赤らめて驚いた顔をしていた。
「ツッキーもそんなこと言うんだ…意外!」
僕でさえも不思議だった。
普段ならこんな正直に言葉にすることなんてない。
なんかおかしくて僕はクスッと笑うと、ツユちゃんも一緒に笑った。
笑っている時間が僕に覚悟を決めさせてくれた。
「ツユちゃん、ちょっと話し良い?」
そういうと僕らはベンチの近くへ行き座り込んだ。
車椅子を押そうとしたけど、「歩けるよ。」と言ってツユちゃんもベンチに座った。
そして僕は今朝違和感に思ったことを伝えた。
そんな話をする僕を、ツユちゃんは目を逸らさずに話を聞いてくれた。
「それで…ツユちゃん、間違ってたらごめんなんだけど、この前の看護師は担当医さんで、ツユちゃんは通院してる。言いたくなかったらいいんだけど…なにか病気なの?」
僕は丁寧に落ち着いて話しているつもりだったが、内心は不安が募っていた。
ただその気持ちは顔に出ないように頑張った。
「…」
ツユちゃんは言うか言わないか迷っているようだった。
「無理なら大丈…」
「がんだよ。」
僕は何も言えず固まってしまった。
ツユちゃんは青空を見ながら話を続けた。
「1年前くらいから。今は休みの時だけ病院に来て薬や放射線で治療してる。」
僕は何も言えずにツユちゃんを見た。
白い髪に細い腕。
「なんで気づかなかったんだろう…」
心の中で呟いたつもりが声に出ていた。
ハッと我に返るとツユちゃんはふふっと笑った。
「それだけ私が変装のプロってことだね!」
ツユちゃんは顎に手を当ててウムウム。と頷く。
ツユちゃんは僕の顔をもう一度見ると、ムッとした顔でいきなり僕の頬を両手で勢いよく触れた。
僕の顔の肉が真ん中に寄せられる。
「ハにするフだよ…」
「そんな顔しない!私こんなに元気なんだよ!」
そう言うとツユちゃんは満面の笑みを僕に見せつける。
「はなヒてよ…」
僕はそう言ってツユちゃんの腕を掴み下ろした。
今にも折れてしまいそうな細い腕だった。でも…
「…君がそういうならそうなんだろうね。」
僕も笑い返した。
もちろん不安で心配だった。
どれくらい深刻なのか聞きたい気持ちは正直あった。
でもそれ以上に彼女の笑顔は曇らせたくなかった。
ツユちゃんは少し驚いた顔をした後、安心するかのように微笑んだ。
金木犀の匂いが僕らを包んだ。
「ただし!このことは内密にね。みんなハギのことでいっぱいいっぱいだろうから。心配事は増やしたくない!」
そう言ってツユちゃんは僕の顔を覗き込む。
「わかってるよ。」
僕は顔を背ける。
「なんでそっち向…」
「お姉ちゃんー見て!あそこ飛行機雲!」
ツユちゃんが言いかけるとさっきの男の子がツユちゃんに近づいてきた。男の子の隣には女の子がいた。
不思議そうに女の子を見ていると、男の子は紹介してくれた。
「僕の双子の妹なんだ。お見舞いに来てくれたんだよ。」
「そーなんだね。」
ツユちゃんは笑って答えた。
「お姉ちゃんあっちにも面白いのあるから来てよ!」
そう言うと男の子はツユちゃんの手を引っ張り連れていく。
「ちょっ…」
「いいよ。僕のことは気にしないで。」
僕はツユちゃんに伝えると立ち上がる。
「また…学校でね!」
ツユちゃんは笑って言った。
「ま…またね!」
僕は声を大きくして言った。
男の子に連れていかれるツユちゃんが微笑ましくて僕はカメラのシャッターを切った。
「ツッキー!これだけ言わせて!ツッキーの撮る写真、元気が出て大好きだよ!これからもいっぱい撮ってね。」
ツユちゃんは振り返って僕に言う。
「…頼んだよ!」
そう言い終わると最後にニコッと笑ってツユちゃんは男の子と一緒に遠くへ言ってしまった。
僕はカメラを下ろすと遠くへ行くツユちゃんを見届けた。ボーッとしていると突然僕の服を引っ張られた。
下を向くとそこにはさっきの男の子の双子の妹がいた。
「お兄ちゃん顔…赤いよ…大丈夫…?」
僕は恥ずかしくなりさらに顔を赤らめてしまった。
「大丈夫だよ。僕にとっては元気な証拠なんだよ。」
僕は訳の分からない説明をした。
女の子はそうなんだ…と言うと男の子の元に走っていった。
ーわかってるよ。僕は彼女が好きなんだ。
僕は頭を少し掻いたあと病院を後にした。
彼女の笑顔が頭に残る。
自分も辛い状況なのに、他の人を思う優しさを目の当たりにして。
僕は何をやっているんだろう…
自負の念にかられる。
「僕は優しさを貰ってばかりだ…」
僕は空を見あげる。
1羽のカラスを先頭に群れを率いて羽ばたいていった。
…今度は僕の番。
決心が着いた。
僕が繋ぎ止めよう。
ハギが戻ってきた時、前と変わらない同じ光景を写真に収めるんだ。
そしてツユちゃんのあの笑顔も絶やさないように。
僕は家に帰路を進む。
足取りは少し軽くなっていた。
そう叫んでいたのは小さな男の子だった。
左手には点滴を持っている。
他にもベンチに座るご老人や20歳くらいの年上の人まで、そして共通して病院着で手には点滴を持っていた。
金木犀の匂いが中庭を包む。
そんな様々な人が憩うこの場所はとても暖かく感じた。
「あの飛行機どこに行くんだろうねー。」
聞き覚えのある声だった。
木の影で姿は見えなかった。
青空の下にいる男の子の隣に車椅子に乗った女の子がいた。
髪の毛は白く、空に透き通るようで。
風に乗ってなびいていた。
空を見ながら笑う彼女はとても見覚えのあるものだった。
「ツユちゃん…」
僕がそうつぶやくと彼女は驚いた表情で振り返った。
そして少しして微笑むと
「へへっバレちゃったか。」
白い髪の毛をいじりながら笑いながら答えた。
そのいじっていた髪の毛を掴むと、
「白髪、どう?似合う?」
そう言って笑いながら僕に尋ねる。
「綺麗だ。」
僕は魅了されていた。
すごく美しかった。
かわいかった。
華麗だった。
僕が応えるとツユちゃんは少し顔を赤らめて驚いた顔をしていた。
「ツッキーもそんなこと言うんだ…意外!」
僕でさえも不思議だった。
普段ならこんな正直に言葉にすることなんてない。
なんかおかしくて僕はクスッと笑うと、ツユちゃんも一緒に笑った。
笑っている時間が僕に覚悟を決めさせてくれた。
「ツユちゃん、ちょっと話し良い?」
そういうと僕らはベンチの近くへ行き座り込んだ。
車椅子を押そうとしたけど、「歩けるよ。」と言ってツユちゃんもベンチに座った。
そして僕は今朝違和感に思ったことを伝えた。
そんな話をする僕を、ツユちゃんは目を逸らさずに話を聞いてくれた。
「それで…ツユちゃん、間違ってたらごめんなんだけど、この前の看護師は担当医さんで、ツユちゃんは通院してる。言いたくなかったらいいんだけど…なにか病気なの?」
僕は丁寧に落ち着いて話しているつもりだったが、内心は不安が募っていた。
ただその気持ちは顔に出ないように頑張った。
「…」
ツユちゃんは言うか言わないか迷っているようだった。
「無理なら大丈…」
「がんだよ。」
僕は何も言えず固まってしまった。
ツユちゃんは青空を見ながら話を続けた。
「1年前くらいから。今は休みの時だけ病院に来て薬や放射線で治療してる。」
僕は何も言えずにツユちゃんを見た。
白い髪に細い腕。
「なんで気づかなかったんだろう…」
心の中で呟いたつもりが声に出ていた。
ハッと我に返るとツユちゃんはふふっと笑った。
「それだけ私が変装のプロってことだね!」
ツユちゃんは顎に手を当ててウムウム。と頷く。
ツユちゃんは僕の顔をもう一度見ると、ムッとした顔でいきなり僕の頬を両手で勢いよく触れた。
僕の顔の肉が真ん中に寄せられる。
「ハにするフだよ…」
「そんな顔しない!私こんなに元気なんだよ!」
そう言うとツユちゃんは満面の笑みを僕に見せつける。
「はなヒてよ…」
僕はそう言ってツユちゃんの腕を掴み下ろした。
今にも折れてしまいそうな細い腕だった。でも…
「…君がそういうならそうなんだろうね。」
僕も笑い返した。
もちろん不安で心配だった。
どれくらい深刻なのか聞きたい気持ちは正直あった。
でもそれ以上に彼女の笑顔は曇らせたくなかった。
ツユちゃんは少し驚いた顔をした後、安心するかのように微笑んだ。
金木犀の匂いが僕らを包んだ。
「ただし!このことは内密にね。みんなハギのことでいっぱいいっぱいだろうから。心配事は増やしたくない!」
そう言ってツユちゃんは僕の顔を覗き込む。
「わかってるよ。」
僕は顔を背ける。
「なんでそっち向…」
「お姉ちゃんー見て!あそこ飛行機雲!」
ツユちゃんが言いかけるとさっきの男の子がツユちゃんに近づいてきた。男の子の隣には女の子がいた。
不思議そうに女の子を見ていると、男の子は紹介してくれた。
「僕の双子の妹なんだ。お見舞いに来てくれたんだよ。」
「そーなんだね。」
ツユちゃんは笑って答えた。
「お姉ちゃんあっちにも面白いのあるから来てよ!」
そう言うと男の子はツユちゃんの手を引っ張り連れていく。
「ちょっ…」
「いいよ。僕のことは気にしないで。」
僕はツユちゃんに伝えると立ち上がる。
「また…学校でね!」
ツユちゃんは笑って言った。
「ま…またね!」
僕は声を大きくして言った。
男の子に連れていかれるツユちゃんが微笑ましくて僕はカメラのシャッターを切った。
「ツッキー!これだけ言わせて!ツッキーの撮る写真、元気が出て大好きだよ!これからもいっぱい撮ってね。」
ツユちゃんは振り返って僕に言う。
「…頼んだよ!」
そう言い終わると最後にニコッと笑ってツユちゃんは男の子と一緒に遠くへ言ってしまった。
僕はカメラを下ろすと遠くへ行くツユちゃんを見届けた。ボーッとしていると突然僕の服を引っ張られた。
下を向くとそこにはさっきの男の子の双子の妹がいた。
「お兄ちゃん顔…赤いよ…大丈夫…?」
僕は恥ずかしくなりさらに顔を赤らめてしまった。
「大丈夫だよ。僕にとっては元気な証拠なんだよ。」
僕は訳の分からない説明をした。
女の子はそうなんだ…と言うと男の子の元に走っていった。
ーわかってるよ。僕は彼女が好きなんだ。
僕は頭を少し掻いたあと病院を後にした。
彼女の笑顔が頭に残る。
自分も辛い状況なのに、他の人を思う優しさを目の当たりにして。
僕は何をやっているんだろう…
自負の念にかられる。
「僕は優しさを貰ってばかりだ…」
僕は空を見あげる。
1羽のカラスを先頭に群れを率いて羽ばたいていった。
…今度は僕の番。
決心が着いた。
僕が繋ぎ止めよう。
ハギが戻ってきた時、前と変わらない同じ光景を写真に収めるんだ。
そしてツユちゃんのあの笑顔も絶やさないように。
僕は家に帰路を進む。
足取りは少し軽くなっていた。