花束に囲まれた君が残したもの。

ーあの頃へー

息を整えて2年B組に向かった。
扉を開けるとそこには久しい顔ぶれが揃っていた。

「おお!ツッキーとヒマ来た!」

そう叫んだのは机に腰掛けてたクワ (桑原 北斗 クワハラ ホクト)だった。 

「クワ君、長髪にしたんだ!」

ヒマがクワの元に走りながら言った。
中学の時はさっぱり短髪だった髪は、少しまとめられるくらい長くなっていた。 

「かっこいいだろ〜」

自分で言ってしまうあたりクワらしい。
「自分で言うな」と突っ込もうと思ったら、その前に突っ込みが入った。

「パパのかみイヤっ!」

声の元はユリちゃん(旧姓 遠藤ユリ) に抱かれた小さな子どもだった。
クワのくくった髪を引っ張っていた。

クワとユリちゃんは大学生になってから学生結婚をした。
2人とも同級生ということもあり、結婚式も行ったし、子どもとも数回会ったことがあった。 

「カスミちゃん大きくなったねぇ!」

ヒマが子どもに近づくと、子どもは顔をユリちゃんの肩に埋めた。
ユリちゃんは「ごめん、カスミ人見知りなの…」と焦っていたが、ヒマのショックな顔は面白かった。

ただそれよりもクワの方がダメージを受けたのか、固まっている様子が一番に面白かった。

次会うときはまた、短髪に戻っているだろうな…
そんなことを思っていると横から声がした。

「ツッキー君沖縄どうだった?」

そういったのはシーちゃん(天河シオン)、昔から変わらずのおさげ姿だった。
変わったのはメガネからコンタクトになったことだろうか。

「シーちゃん久しぶり。暑くて真っ黒に焼けたよ。それより元気してた?」

「私はツッキー君と違って、家の中にいることがほとんどだから、もちろん元気だし、まっしろしろだよ。」

つい「まっしろしろ」という言葉に笑ってしまった。
僕の真っ黒に対して答えたかったのだろうが、天然なところも変わってないらしい。

「さすが絵本作家だな。」
そう言ったのはヒラ、(柊 蒼 ヒイラギ ソウ)だった。

こいつとは中学生の時いちばん仲良くしていた。
元から身長高いのに、また身長が伸びたか?

「久しぶり、柊先生。」

「ツッキーに先生って言われると鳥肌しか立たねぇよ。」

シーちゃんは絵本作家、ヒラは学校の先生を今はやっている。
学生のときを思えば「らしい」仕事に就いているなも思う。
 
「あ、椿先生!写真集にサイン頂いてもよろしいでしょうか!」

わざとそう言ったヒラが本とサインペンを取りに行く。

確かに鳥肌しかたたないな…

僕の写真が本にできたのはクワのおかげだ。
出版社で働くクワが写真集を出さないかと、わざわざ声をかけてくれて打ち合わせから何まで最後まで面倒を見てくれた。
 
「あ、私も渡さなきゃだ。」
そう言って、シーちゃんは手元のカバンから絵本を1冊取り出し、ユリちゃんとクワの元へ行く。

「絵本最新刊だよ。カスミちゃん気にいるといいな。」

そう言って本を渡すと、ユリちゃんの肩に顔を埋めてたカスミちゃんが嬉しそうに顔を上げ、絵本に手を伸ばす。

「やっぱ作家本人様から貰うことの凄さがわかってるのか?」

クワがカスミちゃんの頭を撫でる。
カスミちゃんは嫌がるように首を振った。

パパ頑張れ…またクワは落ち込んだ。 

「カスミ、シーちゃんの絵本大好きなの。ありがとう。ほら、カスミもお礼言わないと。」

ユリちゃんがカスミちゃんの顔を見る。

「あ〜と!」

カスミちゃんが可愛らしく答えて、シーちゃんは顔を塞いだ。

「可愛すぎる…」

さすがママの言うことは素直に聞くんだと思っていると
ユリちゃんの後ろには、ママには勝ち目がないというようにクワを慰めるヒマが見えた。

何やってるんだ2人…クスッと笑ってるとヒラが戻ってきて、両手揃えて写真集とペンを渡してきた。

「…名前はヒラでいいか?」

ヒラは少し悩んだあと答えた。

「柊で頼むよ。生徒にソウで充分呼びやすいのになんでヒラなんだよって散々笑われたかさ。そいつらにこの本自慢したら内容よりそこに目が行っちまう。」

確かに…と思った。 
僕らのあだ名を付けたのはツユだ。

「ツユはセンスがあるのかないのか…」

僕がそう呟いた瞬間、空気が変わったのがわかった。

「久しぶりだよ。みんなをこのあだ名で呼ぶのは。」
続けるようにヒラが言う。

「ツユが死んで8年が経つのか…」
クワが呟く。

「あの辺の席だったよね。」
シーちゃんが窓辺の席を指さす。

「花を持ってきたよ。」

そう言ってヒマが紙袋から色とりどりの花束を取りだし、指さした席に置く。

カーテンがなびく。
少し静かになった教室にバタンと音が響いた。
ユリちゃんの肩に抱かれたカスミちゃんが絵本を落とし、また顔を肩に埋めていた。
 
もしかして…ツユがいるのか…
 
ーねぇ写真集まった?ー

そんな声がした。いや、した気がしたのか…
同時に何か心の鎖が開いたかのように、僕らの捕らわれた夏がフラッシュバックする。

教室に僕らの8年前の姿が見えたようで。

あの夏は僕らの原点で頂点だった。
< 5 / 63 >

この作品をシェア

pagetop