意地悪な副社長に狂うほど愛される

御堂家

大きな門の前に御堂駿の乗った車が止まった。
門がゆっくりと自動で開く。
大きな庭にお屋敷がそびえたっている。
屋敷までの道のりを車が走っていて、運転席の駿は無表情だった。

車が玄関に止まると控えていた使用人がドアを開けた。

「お帰りなさいませ」
「出迎えはいいのに」
「そういうわけにはいきません」

御堂は使用人の前をスタスタと歩いた。

ダイニングに入ると大きなテーブルについている御堂一家が一斉にこちらを向いた。

「遅いぞ」

長男の御堂頼(みどうらい)(35)が不機嫌そうに言った。

「すみません」

大きなテーブルに既に駿の分も朝食が準備されていて、席に着いた。

「月に1度しかないんだから駿さんも、もう少し気を遣ってくれないとね」

母、御堂佳代子(みどうかよこ)が優しくたしなめた。

「まったくだ、お前が朝にしてくれと言ったんじゃないか」

父の御堂太郎(みどうたろう)も頼と同じく不機嫌に言う。

「朝帰りなんじゃないか?」

頼の言葉に佳代子がかちゃりとフォークを皿にぶつける。
返事の代わりに駿は兄に微笑んだ。
弟の反応に苛立ったのか、頼はふんっと鼻をならしスクランブルエッグに小皿に入ったトマトソースをそのままぶっかける。

「彼女でもいるのか」

父が駿に質問したが、駿はパンをちぎり、それを無視した。

「まあ、いい。今の女は清算しろ」

朝から何の話をされるのかと、駿は眉間に皺が寄る。

「お前にはもっと上に行ってもらいたい」
「父さん!」

太郎の言葉に頼が反応した。

「駿がこれ以上、上って会社を任せるってことですか!?」

太郎は頼を鋭い目つきで黙らせる。
頼は大きな体を縮こまらせて、駿を睨んだ。

「この前のインドネシアの原油の投資はうまくいきそうだ」
「よかったです」
「お前には先見の目がある」

頼がフォークを折るんじゃないかというほど強く握っていたのが駿は目の端から見た。

「あとは結婚だけだ」
「またですか。僕はまだ結婚するつもりはありません」
「そういうな。この縁談は大きいんだ」

太郎が手を挙げると執事が見合い写真を駿に渡した。
駿はお見合い写真を開く。
綺麗な女性が着物姿で微笑んでいる。

「美人だろ」
「お父さんが選ぶ方は皆さん、綺麗ですよ」

太郎は満足そうに微笑んだ。

「彼女は佐伯グループの一人娘だ」

その瞬間、ガチャンと大きな音がして、頼がフォークを皿に叩きつけたのがわかった。

「頼さん」

母が小声でたしなめる。

「佐伯グループ……」

駿は写真から目を離さなかったが、兄の動揺が空気を変えたのはわかっていた。

佐伯凛華(さえきりんか)嬢だ。今年で28になる」

太郎は頼の様子など意に介さず、淡々と続けた。

「御堂と佐伯が繋がれば、この国の流通の3割は我々のものになる」
「あなた」

佳代子が遠慮がちに口を挟んだ。

「縁談のお話はわかりましたが、まず駿さんに気持ちを」
「気持ちの問題じゃない」

太郎が静かに、しかし有無を言わせない声で遮った。
この縁談の重さが滲み出ていた。

「お断りしてもいいですか」
「駿」
「冗談です」

駿は写真をテーブルに置いた。

「考えておきます」
「考えるだけでいい、今は」

太郎は満足そうにうなずいた。
頼はずっと黙っていた。
食事が再開されたが、テーブルの空気は終始重かった。
佳代子だけが何事もなかったように「今日は天気がいいわね」と呟いたが、誰も返事をしなかった。
食事が終わり、駿がリビングのソファに座っていると

「少しいいか」

頼の声がした。

「どうぞ」

頼が前のソファに座った。

「佐伯の話、本気で受けるつもりか」
「さあ」
「さあ、じゃないだろう」
「まだ考えていないので」
「嘘をつくな」

頼の声が低くなった。

「お前はいつもそうだ。何も考えていないふりをして、全部わかっている」
「……」
「佐伯梨花と結婚すれば、御堂グループはお前のものだ」
「存じませんでした」
「知っているだろう」

駿は静かに兄を見返した。

「縁談はお父さんが決めることです。僕が口を挟むことじゃない」
「お前が断れば済む話だ」
「断る理由がありません」

頼が怒りのまま立ち上がった。
駿は動かなかった。
長身の兄がこちらを見下ろしても、駿の表情は変わらない。

「お前はなんでいつも俺の邪魔をする!」
「邪魔をしているのは兄さんですよ」

駿は笑いながら言った。

「何を笑ってるんだ」
「兄さんが必死なので」

その瞬間、頼は駿の胸倉を掴み殴ろうとしたが、拳はプルプルしたまま止まった。

「お前は何がしたいんだ。会社か。地位か。それとも俺から何もかも奪うのが楽しいのか!」
「兄さん」

頼は拳を下した。

「わかってる。お前のせいじゃない。俺に経営者としての才能がないだけなんだ。父さんはそれをわかってるんだ」

頼はうなだれるように座り込んだ。

「兄さんは御堂グループを継ぎたいの」
「当たり前だろ!」
「そうか……」

駿は無表情でただ頼を見つめるだけに留めた。

駿が玄関へ向かう使用人や運転手がバタバタと動き出す。

「もう帰るの?」

佳代子が後ろから声をかけた。

「ええ。仕事が残ってるので」
「今日は日曜日なの知ってるのかしら」
「知ってますよ」

駿は手を広げる母に軽く抱き着いてよく磨かれ丁寧に置かれた靴を履いた。
使用人がドアを開け、玄関前には車が停まっていて運転手が立っている。

「自分で運転できますよ」
「ご命令なので」
「なら仕方ないですね」

運転手が後部座席のドアを開けて駿が乗り込む姿を太郎と頼がそれぞれ別々の窓から見ていた。
佳代子は使用人と一緒に玄関から駿を見送った。
車は再び大きな門を出て行った。

太郎が窓から離れて部屋に秘書が入ってきた。

「あいつに女がいるか調べろ。いたら、いくら使ってもいい。排除しろ」

太郎は指示したのだった。
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