意地悪な副社長に狂うほど愛される

同期という関係

仕事が終わり、残業せずに終われそうだった。
あの日以来、1週間、副社長に遭っていないし、見かけてもいない。
大きな会社で副社長との接点というものは、ほとんどないに等しいことを改めて知った。

「あゆ美!」

入り口で私に向かって手を振っているのは啓太だった。

「この後、飲み行かないか?」
「いいけど、また愚痴?」
「そんな顔するなよ~聞いてくれよ~」
「はいはい。その代わり」
「奢るよ!わかってる」
「ならいいよ」

私は仕方ないといった風な態度をしたあとパソコンをパタンとしめた。
1人になりたくなかった。
毎日、家に帰って1人でいると副社長のことを考えてしまうからだ。
寂しくなるとアプリを開いた。
しかし、それが自分を惨めにむなしくさせるだけだった。

私たちはエレベーターを待った。
啓太と話していると気がまぎれた。
エレベーターが到着すると扉が開いた。
開いた瞬間、息が止まりそうだった。
エレベーターの中に立っていたのは、副社長だった。
スーツ姿のまま、腕を軽く組んで壁にもたれている。
その視線がゆっくりとこちらに向いた瞬間、足が竦んだ。

「お疲れ様です!」

啓太が何も感じていない様子で一歩踏み出した。
私は動けなかった。

「私たちは次のにしますので――」
「乗れ」

有無を言わせない声だった。
私たちはエレベーターに乗り込んだ。
扉が閉まる。
狭い空間で私の心臓だけがうるさかった。
聞こえるのではないかとヒヤヒヤした。
副社長が私を見ているのが、わかった。

「御堂副社長は、まだお仕事ですか?」

啓太が沈黙に耐えかねて声をかける。

「ああ」
「そうなんですね。俺たちも今日終わりで、これから飲みに行くんです」
「2人でか」

やめて――

「はい。俺が愚痴を聞いてもらう予定なんですよ。まあ俺も聞くことになるけど、なぁ!」

そう言って啓太は私の肩を持った。

「ええ、まあ」

ちらっと副社長を見るとあからさまに私の肩を持っている啓太の手を見つめていた。

「愚痴……か」

副社長が真っ直ぐ私を見た。

「誰への愚痴だ」
「ぐ、愚痴なんて言いませんよ」
「そうか」

息がつまりそうだった。

「会社への愚痴はないですよ!」

啓太が焦って言った。
その時、エレベーターが1階に着いて止まり扉が開いた。
副社長が先に出た。

「お疲れさまでした!」

啓太の挨拶に対して「お疲れ」とだけ言って去っていった。
啓太は「印象悪くしたかな?」と心配していたが私はそれどころではなかった。
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