意地悪な副社長に狂うほど愛される

同棲

「ここは?」

脳には異常がなく、腕の骨折だけで済んだので、ギブスをはめた腕を吊された状態だ。
副社長に連れて行かれた場所はマンションの一室だった。

「俺の個人的に使っている書斎だ」

書斎が自分の住んでいる場所ではなく、他の場所にあるなんて、金持ちめーー

「腕が治るまでは、ここで休んでいろ」
「そこまでしてもらうわけには」
「キミの今の部屋は父が用意したものだろ? そんなところに戻れるのか? おそらく仕事にも、もう戻れない」
「そんな」
「心配するな、腕が治ったら俺の仕事を手伝って貰う」
「え?」
「御堂グループとは関係ない、もう1つ俺が運営している会社がある。とはいっても俺の友人を代表にしているがな。俺を代表にしたら父にバレるだろうし」

副社長はいたずらっぽい笑みを浮かべた。

「どうして、そんな」
「まあ、趣味というか」

誤魔化そうとしているのが、すぐにわかった。

「お願いします。すべて話してください、じゃないと私はここを出ます」

副社長はため息をついた。

「そうだな。キミにはすべて話した方がいいだろう」

副社長は私の肩を優しくもち、大きなソファに座らせた。

「何か飲む?」

私は首を横に振った。
早く話を聞きたい。
副社長は少しだけ間をあけて横に座った。

「この会社は俺が社会人2年目の時に運営を始めた旅行会社だ」
「旅行会社? でも御堂グループには御堂ツーリストが」
「ああ、でも父も兄も潰そうとしている」
「なんで」
「まあ、あそこは赤字だしな」
「でも私が居たときは」
「そこそこはV字回復はしたが、父としては残していたくないんだ。あれは祖父が作った最初の会社だからね」
「あ、それは聞きました。高校の時」

あの時の会社の説明をする副社長の姿が思い出されて、顔を赤くした。

「何を思いだしてる?」

にやりと副社長は笑みを浮かべた。

「わ、わかってるでしょう! それで、続きを! なんで会長の作った会社を社長は潰したいんです?」
「嫌いだからじゃないかな」
「え?」
「父は婿養子なんだよ」

それは初耳だった。

「母が御堂家の人間。母と結婚した父が社長になったというわけだ」
「でも社長にしたんだとしたら」
「社長になるまでは父も良い夫、良い義理の息子、良い父親だったよ」

副社長の顔は無表情だったが、目だけは軽蔑の眼差しだった。

「社長になった途端、父は愛人を作り家に帰ってこなくなった。俺と兄にあれだけ時間を取ってくれたのに、さっぱりだった。まあ、俺も社長になって仕事が忙しくなったと思っていたけれど。母が睡眠薬を大量に飲もうとしているところを見つけるまではね」
「そんな……」
「母は結局、俺に何も言わなかったが、母にずっとついているメイドが教えてくれたよ。父を尊敬していたから、失望は大きかった」
「それで社長を?」
「ああ、でも俺がいくら成績がよくても、父の望む大学にいっても兄が社長は覆らなかった」

家族がいても、こんなに苦しむことがあるのかと、なんだかやるせなくなった。
私は気がついたら副社長を抱きしめていた。

「なっ」

副社長が驚いたように声をあげる。

「もう頑張るのやめませんか」
「……」
「お母様にも副社長がいます。社長にならなくても、こんなに立派に。復讐に力を使うんじゃ無くて、幸せになることに力を使いませんか」
「復讐か」

副社長が笑うように息を吐いた。

「そうか、俺は復讐をしていたんだな」

私は身体を離して副社長の顔を覗き込んだ。

「復讐だと思っていなかったんですか?」
「いや、最初はそう思っていた。父の思い通りにさせないって抵抗というか、反発というか。ただ、最近はいったい何の為にやっているのか、よくわからなかった。特にキミとエレベーターで再会してからは」

副社長は優しく微笑んだ。

「キミに会ったら、すぐに告白しようと思ってたから」

私は一気に顔が熱くなった。

「なんで私なんかを」
「俺の考え方を変えてくれたからかな」
「そんなこと、してませんよ」
「俺が1番、やさぐれていた時にキミが俺の心にスッと入ってきたんだ」

副社長の顔がゆっくりと近づいてくる。

「キス、していい?」
「今まで、そんなこと聞かずにしてきたじゃないですか」

私は目を反らした。
副社長がふっと笑う。

「それは肯定ととるよ」

副社長が顎を少しだけ乱暴に持ち、向きを正面に変えるとあっという間に唇を奪われた。
それは今までの激しいキスとは違う、優しいキスだった。
副社長は唇を離すと「好きだ」と言って、もう1度、唇を押しつけた。

甘くて、あまくて、頭がしびれそうになったーー
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