第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
「……来るか」

魔宝獣の咆哮が、空気そのものを震わせた。
廊下の温度が一瞬で下がる。

俺は静かに一歩、前へ出る。

剣を握る手に、迷いはない。
退けば誰かが死ぬ。
だから、退かない。

「情熱よ。
血と覚悟を糧に、我が誓いとなれ――ガーネット」

刹那。

鍔に嵌め込まれたガーネットが、
深紅の光を噴き上げた。

それは炎ではない。
熱でもない。

血の脈動そのもののような、重く、揺るがぬ光。

紅光が刃を包み、
剣身に結晶の紋様が走るたび、空気が震えた。

「――行くぞ」

踏み込んだ瞬間、床石が砕ける。

魔宝獣が咆哮し、爪を振り下ろす。
風圧だけで皮膚が裂けそうな一撃。

だが、退かない。

剣を正面から叩きつける。

――ガンッ!!

衝撃が腕を痺れさせるほど重い。
だが、紅い光が爆ぜ、魔宝獣の巨体を押し返した。

「退くのは、私じゃない」

次の瞬間、
振り抜いた剣から紅い斬撃が奔る。

それは、
守ると決めた数だけ重くなる一太刀。

魔宝獣の咆哮が、悲鳴へと変わった。

背後で、騎士たちが息を呑む。

「……これが、王国騎士団の前線だ」

剣を下げない。
紅く燃えるガーネットが、まだ脈打っている。

まるで、
まだ終わっていないと告げるように。
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