第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
「レイさんはさー」
少し間を置いてから、レオが口を開いた。
軽い調子だけど、その目は探るように細められている。
「この迷宮には、詳しくないの?」
「いえ、詳しくは私にも……」
レイはそこで言葉を切り、眼鏡を指で押し上げた。
レンズに反射し、きらりと光る。
ひと呼吸置いてから、静かに続ける。
「むしろ、王城の地下にこんな構造があるとは知りませんでした」
その声音には、隠しきれない警戒が滲んでいた。
「それより――」
私は視線を上へ向ける。
「上は、どうなっていますか?」
「それが……大混乱で」
レイは簡潔に答えた。
「魔宝獣が出て、今はアラン殿下たちが何とか対処しています」
「……そうですか」
ルイの表情がわずかに硬くなる。
レイは続けた。
「陛下の仕業でしょうね。状況は、かなり深刻です」
その言葉に、空気が一段と重くなった。
「とにかく、我々は進みましょう」
レイがきっぱりと言い切る。
その背中はいつも通り冷静に見えるのに――
歩幅が、ほんの少しだけ速い。
焦っている。
状況が読めない迷宮、分断された王族、そして地上の混乱。
冷静を保ってはいるが、レイの内側には確かな緊迫があった。
私は剣を握り直し、前方の闇を見据える。
――ここから先、何が待っているのか。