第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
取り戻す心
セナとテオの連撃が、氷と紅の軌跡を描きながらジョルジュを押し込んでいく。
金属がぶつかる音、魔力が弾ける音が鋭く響き渡った。
その背中を見つめながら、私は深く息を吸う。
――今しかない。
共鳴。
2人が作り出した、この一瞬の隙。
逃すわけにはいかない。
私はそっと目を閉じた。
「……集中だ」
心臓の鼓動が、世界の喧騒を押し流していく。
外の音が遠ざかり、代わりに自分の魔力の流れが鮮明に浮かび上がった。
短剣を握りしめ、静かに詠唱する。
「我が想いに応えよ――ラピスラズリ」
蒼い光が刃から溢れ、空気が震えた。
その光は、まるで私の心そのもの。
――ディラン。
胸の奥で、そっと名前を呼ぶ。
「お願い……答えて」
蒼い光が脈打ち、意識が深く沈んでいく。
まるで水底へ引き込まれるように、世界がゆっくりと暗転していった。
遠くで、セナとテオの声がかすかに届く。
「押し込め、テオ! お嬢様に近づけるな!」
「わかってる!
この身体が砕けようとも、絶対お嬢様に近づかせない!」
金属音が響き、ジョルジュの怒声が混じる。
だが、私の意識はもうそこにはなかった。
蒼い光に包まれながら――
私はディランの内側へと、深く、深く潜っていく。