第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
ティアナの意識が深く沈んでいく、その時――
ジョルジュが怒声を上げた。
「くそ! 邪魔をするなぁ!!!」
ディランの身体から黒い魔力が噴き上がり、
床の影が歪む。
そこから魔宝獣が次々と形を成し、牙をむいてティアナへ一直線に迫った。
「お嬢様!!」
セナとテオが同時に叫び、魔宝獣へ飛び込む。
氷と紅の斬撃が次々と切り裂くが――
数が多すぎる。
「くっ……間に合わない!」
「お嬢様から離れろ!!」
2人が必死に押し返す中、
一体がティアナへ跳びかかった。
その瞬間――
前へ一歩、静かに影が出る。
ユウリだった。
「理を整えよ――フローライト」
剣先が床に触れた。
――カン。
澄んだ音が戦場に響き、
灰色の透明な波紋が床を走る。
光は暴走する魔力を絡め取り、
乱れた流れを静かに整えていく。
空気が一瞬で澄み渡り、
魔宝獣が砕け散った。
「ユウリ……!」
「さすが!」
セナとテオが安堵の息を漏らす。
ティアナは共鳴の深みに沈んでいる。
ユウリは剣を構え直し、静かに言った。
「お嬢様には指一本触れさせません」
だが――まだ終わりではない。
ジョルジュが舌打ちし、さらに魔力を放つ。
「ならば……これでも防いでみろ!」
空気が震え、精神を揺らすような衝撃が広がる。
その瞬間、もう一つの影が前に出た。
レイだ。
「静寂を保て。惑いを断て――アメジスト」
深紫の紋様が刃に浮かび、
音のない波紋が地を這う。
その波紋は精神を乱す魔力を吸い取り、
戦場に“静寂”をもたらした。
魔宝獣の咆哮が消え、
ジョルジュの魔力の揺らぎが抑え込まれる。