第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
「……頼る、かぁ。
もう随分みんなに頼ってるよ」
天井を見上げたまま呟くと、ユウリがそっと視線を落としてくる気配がした。
「足りないぐらいですよ」
穏やかな声が降りてくる。
「強くあろうとするのは素晴らしいことですが……
強さは、誰かに支えられても失われません」
その言葉は、まるで心の奥に触れるように静かで優しい。
「ユウリは……そうやって、いつも私を甘やかす」
「甘やかしているつもりはありませんよ。
ただ、必要なときに必要な言葉をお渡ししているだけです」
柔らかな微笑みが、ほんの少しだけ照れくさくなる。
「お嬢様が前を向けるように。
その背中を支えるのが、私の役目ですから」
その言い方があまりにも自然で、胸がまたじんと熱くなる。
「ほんと、有能な執事がいて助かる」
「ありがたいお言葉です」
ふたりで顔を見合わせ、思わず笑い合った。
そのとき——コンコン、と控えめなノックの音が響く。
「はい」
返事をすると、扉の向こうにはレイさんが立っていた。
「お疲れのところ申し訳ありません」
「いえ、むしろ休ませていただいてありがとうございます」
「殿下がティアナ様に少し会いたいとおっしゃってまして……大丈夫ですか?」
申し訳なさそうに言うレイさんに、私はすぐ頷いた。
「もちろんです」
立ち上がると、ユウリがそっとカーディガンを肩にかけてくれる。
「じゃあ、ちょっと行ってくるよ。
ユウリもゆっくり休んでね」
「ええ、ありがとうございます」
軽く微笑み合ってから、私はレイさんの後に続いた。