第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
レイ side

ティアナ様と並んで、殿下の部屋へ向かって歩く。
太ももを怪我されている。
自然と歩幅をゆっくりと合わせた。

「怪我は……つらくないですか?」

気づけば、口が勝手に動いていた。

「大丈夫です」

ティアナ様は、いつものように柔らかく笑って答える。

「そうですか。無理はなさらずに」

「……はい。それにしても、後処理が大変そうですね」

窓の外へ視線を向けながら、ティアナ様が呟く。
魔宝獣が暴れた痕跡。
崩落した迷宮。

「そうですね。まあ、どうにかしますよ」

私は少し肩の力を抜いて笑ってみせた。

「ティアナ様」

意を決して声をかける。

「はい?」

「本当に……ありがとうございました」

足を止め、深く頭を下げた。

「そ、そんな! 顔を上げてください!」

慌てた声が返ってくる。

「感謝してもしきれません。貴方がいなければ……どうなっていたことか」

自分でも驚くほど、声が震えていた。

「私ひとりでできたことじゃありません。みんながいたからこそです」

ティアナ様は、静かに微笑む。
本当に……強い人だ。

「それに……そうさせたのはディランの人柄ですよ。なんだかんだ、みんなディランのこと好きなんです」

自分の功績を誇ることもなく、
殿下の人柄だと言い切るその姿勢。
本心からそう思っているのだろう。

「やはり……殿下の隣に立つのは、貴女しかいませんね」

「……そうだといいんですが」

照れ隠しのように笑うティアナ様を見て、胸が温かくなる。
殿下……ちゃんと愛されていますよ。

やがて、ディラン殿下の部屋の前にたどり着いた。

コンコン、とノックをする。

「殿下……ティアナ様をお連れしました」

「ああ、入ってくれ」

中から落ち着いた声が返る。

「では、私はこれで」

軽く頭を下げる。

「はい、ありがとうございます」

「もし殿下に何かされそうになったら……容赦なく手を出して構いませんからね」

「ふふ、それ、側近の言うセリフじゃないですよ」

「そうですね」

ふたりで小さく笑い合った。
< 185 / 226 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop