第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
「なんですか、それは?」

怪訝な顔をするセナ。

「王国内の地図、警備兵の配置。見回りの時間……それに、抜け道だ」

「殿下……直接渡してください」

セナは差し出された資料を、ためらいなく押し返した。

「無理だ」

即答だった。

「こんな極秘資料、騎士なんかに預けないでください!」

セナが一歩踏み込む。
思った以上に力が強く、思わず押し返す形になる。

一瞬、静かな押し問答。

――これは、無理だな。

小さく息を吐いた。

「……なら、セナ。一緒に来てくれ」

「はぁ?」

気の抜けた声が漏れる。

「頼む」

今度は、迷いのない声音だった。

セナはしばらく黙り、やがて肩をすくめる。

「……わかりましたよ」

観念したように言い、踵を返す。

「行きましょ」

その背中は、いつもより頼もしく見えた。
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