第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
ティアナ side
潜入まで、まだ時間はある。
まずは体力作りだ。
王妃教育で鈍った体を叩き直さなきゃいけない。
……それにしても、セナはどこへ行ったんだろう。
打ち合いに付き合うって言ってたのに。
そんなことを考えていたとき、視界の端に見慣れた姿が入った。
「あ、セナー!」
思わず声を上げて手を振る。
けれど、その後ろに立つもう一人の姿に気づいた瞬間、動きが止まった。
――ディランだ。
会うのは…アラン殿下と出かけた以来だ。
に、逃げる?
……いや、違う。逃げちゃだめ。
わかってる。わかってるんだけど、足が動かない。
そうこうしているうちに、セナがすっと目の前に来た。
「ディラン殿下がお話ししたいそうです」
そう言って一歩下がる。
その背後から、控えめにディランが顔を出した。
「やあ」
「じゃあ、俺はこれで」
逃げる気満々のセナの裾を、反射的にぐいっと掴む。
そのまま、逃げ道を塞ぐように――
セナをディランの正面へ引きずり出した。