第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
とりあえずこれで俺は動きやすくなる。
兄に感謝だな、と胸の奥で小さく息をつく。

ティアナがこちらを見上げてくる。
その瞳は、どこか落ち着かないようで、けれど俺の様子を気遣う色が濃かった。

「私も、みんなの手伝いしてきていい?」

その言葉が終わる前に、思わず口が動いた。

「だめだ」

即答だった。
自分でも驚くほど強い声だったが、引っ込める気にはなれない。
彼女だって怪我してる。これ以上無理を重ねる必要なんてない。
それに――俺の目の届くところにいてほしい。頼むから。

ティアナは一瞬だけ目を丸くし、すぐに視線をそらした。
頬がわずかに赤くなっているのがわかる。


身体を拭いてっと頼めば、
渋々といった様子で立ち上がり、タオルを手に戻ってくる。
その仕草がどこかぎこちなくて、逆に愛おしい。

俺の後ろに膝をつき、そっと背中に触れた瞬間、
彼女の指先の温度がじんわりと伝わってくる。

「ねぇ、ディラン。前より……たくましくなりました?」

その声は、囁くように静かで、
まるで俺の変化を確かめるように、ゆっくりと胸の奥に落ちてくる。


ティアナの好みの身体がレイだと知ってから、
俺は密かに筋トレを続けてきた。
まさかこんな時にお披露目になるとは思わなかったが。

ふいに、指先が背中をなぞった。
思わず身構える。

そして――
俺の背にぴたりと寄り添ってきた。

距離が近すぎて、心臓が跳ねる。
無自覚にも程がある。

思わず、ティアナを軽く押し倒す。

だが、その本人はどこか余裕そうに筋肉を見ている。

この子は全く…

だから首筋にキスを落とした。
その反応がいちいち可愛いくて、たまらない。


そしたら、タイミング悪くみんなに見られたが。

まあ、でもいい。
これから彼女を、たっぷり甘やかして可愛がる。
< 213 / 226 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop