第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
「ここのマカロン、美味しいですよね」

少女はそう言って、ふわりと微笑んだ。
年相応の無邪気さよりも先に目につくのは、背筋の伸びた姿勢と、指先まで整った所作。
身にまとうドレスも、生地も仕立ても装飾も、どれを取っても上等だ。

……なるほど。
貴族のご令嬢。

「あ、自己紹介がまだでしたね」

小さく首を傾げ、にこりと笑う。

「ティアナ・ラピスラズリです。ラピスラズリ伯爵家の娘です」

どうりで。
自然と納得がいった。
……それより。

なぜ、そんなご令嬢が私に?

「ルイと申します。公爵家騎士団の一員として、こちらで任務中です」

「そうでしたか。任務はいつまで?」

「一か月ほどです」

「そう」

ティアナ様は紅茶を一口含み、静かにカップを置いた。

……本当に、綺麗な子だ。
外見だけじゃない。落ち着き方が、年齢に見合わない。

「それで……私に何のご用件でしょうか?」

慎重に言葉を選ぶ。

「スケッチブック、返していただけると助かるのですが」

「あ、そうでした」

今度はあっさりと差し出される。

「はい」

受け取りながら、視線が走る。

「……これは、あなたが?」

「はい」

「服を……実際に作っているんですか?」

「ええ、まあ」

曖昧に答えると、ティアナ様は少しだけ意味ありげに微笑んだ。

「そう」

一拍置いて、テーブル越しに身を乗り出す。

「ねぇ。お願いがあるの」

「……お願い、ですか?」

胸の奥が、ざわりとした。

ただのお嬢様じゃない。
この子は――。

「私に、ドレスを作ってくれないかな?」

あまりに予想外の言葉に、私は思わず目を丸くした。
< 34 / 226 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop