第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない
「ティアナちゃん」

声を落とす。
冗談も飾りもいらない、まっすぐな声音。

「わたしね……あなたに出会ってから、人生が全部変わったの」

一歩、近づく。
逃げ場のない距離だと分かっていながら。

「夢も、居場所も、家族の未来も。全部、あなたがくれた」

そっと指先が、彼女の手に触れる。
その小さな震えが、はっきり伝わってくる。

「だから――」

視線を逸らさず、言い切る。

「あなたがどんな道を選んでも、わたしは隣にいる」

ふっと微笑む。

「守るとか、支えるとか……そんな生易しい話じゃないわ」

声をさらに落とす。

「あなたの人生に、わたしを巻き込んでちょうだい」

……一瞬の沈黙。

ティアナちゃんの頬が、みるみる赤く染まっていく。

「……ル、ルイ……」

視線は泳ぎ、言葉を失っている。

わたしはそこで、一歩だけ止まった。
それ以上は詰めない。

「ねぇ、ティアナちゃん」

囁くように、でも確実に届く声で。

「あなたが、わたしを選ばなくてもいい」

その一言に、彼女の瞳が揺れる。

「それでも、わたしはあなたを選ぶわ」

穏やかに、でも断言する。

「奪うつもりはないし、あなたの大切な人を否定もしない」

そっと距離を保ったまま、柔らかく続ける。

「ただね」

微笑んで。

「あなたが笑う場所が、わたしの居場所なの」

軽く、冗談めかして――それでいて本気で。

「……覚悟しなさい」

唇の端を上げる。

「一生分、味方でいるつもりだから」
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